第27話 ワーク スケジュール ⑤
試行錯誤の末に僕が選んだのは、極力肌の露出を抑えることができる白いワンピースの水着だった。ワンピースなら胸元から腰のラインまで覆うことができるので、男だと怪しまれることは……まぁ、まずないだろう……たぶん。
「これで、どうですか?」
僕は上目遣いで秦泉寺さんの顔色を窺う。やはり女性物の水着を身につけている以上、気持ちは一向に落ち着かない。周囲の目を嫌でも気にしてしまう。
「――悪くないわね、これで行きましょう」
「よ、よかった~……」
これでNGだったらビキニを着させられると覚悟していただけに安堵した。
「咲の水着、すごく綺麗。本物の天使みたい!」
「そ、そんなことないよ……。それに天使と言うなら、夏向の方が……」
僕は水着姿を褒められたことに照れてしまい、思わず右耳の耳朶を触ってしまう。これも瞬き同様、僕の癖の一つである。あまり人に褒められるような人生を送ってこなかったので、こうしてつい耳を弄ってしまうのが癖になってしまった。
「私は天使なんて柄じゃないよ、腕は太いしお尻だって」
そこまで言うと夏向は、おもむろに水着の際どい部分を僕に見せつけてきた。
普段見ることのできない夏向の脇が、太ももがっ!
僕の網膜に焼き付いてしまう!
「二人共、写真の撮影が始まるわよ。早く行きなさい」
「「はーい!」」
元気よく返事した夏向に手を握られて、僕はビーチへ出る。
するとそこで、丁度撮影を終えた斗羽利と出くわした。
「貴女、なんですのその水着は? 白一色で体を覆っているだけだなんて、色気の欠片もないじゃありませんの」
「い、いいんです! 私はこれで!」
「……そうですわね、貧相な体にはそれに適した物が一番ですもの。よく見ればとってもお似合いでしてよ」
僕をジロジロ見て好き放題言うと、斗羽利は更衣室の中へ消えていった。
「斗羽利ちゃんってば、素直に似合うって言えばいいのに」
「夏向、あの言い方は完全に私を馬鹿にしてるんだと思うよ……」
「そんなことないよ、斗羽利ちゃんに限って」
夏向って本当に純粋だなぁ――、そこが彼女らしいところではあるのだが。
斗羽利のことはさておき、僕は撮影セットの置かれた場所へとやってきた。
「キャ――――――ッ! 枢木夏向の水着姿をこんなに近くで見られるなんて、私ってば本当に幸せ者だわぁ―――――っ!」
奇声を上げて僕と夏向を迎えてくれたのは、瑠璃色の瞳を爛々と輝かせるカメラマン(瑠璃さん)だった。
ハイテンションで咆哮する彼女の声に、思わず身がギョッとなってしまう。
「はぁはぁ……蕗村さんの水着も、はぁはぁ、い……いいですねぇ(じゅるり)」
鼻息を鳴らし、息を荒げ、溢れんばかりのヨダレを拭う瑠璃さん。彼女の態度に僕は確信した、この人の頭の中には間違いなく百合が咲いている……と。万が一僕が男だとバレた時、瑠璃さんは殺意の波動に目覚めてしまうかもしれない。
「さーて、それでは撮影を始めましょう」
カメラを手にした瑠璃さんは、僕と夏向の写真を撮り始めた。あれよこれよとポーズをとっては、パシャパシャとカメラに収めていく。
それはもうラフなポーズから、大胆なものまで……。
「良い! 凄く良いですよ、二人共!」
職業柄、被写体の魅力を引き出すのも撮影側の腕次第なのだろう。
一体何が良いのか僕にはよくわからないが、きっと写真を撮っている瑠璃さんにはわかるのだ。
「蕗村さん、その表情が最高です! もっと枢木さんと密着して! もっと足を絡めて!」
「こ、こう……ですか?」
瑠璃さんの指示に従って、夏向は僕の体に密着して足を絡めてくる。水着を着ていることで肌の感触と彼女の体温が直に伝わってきてしまう……。
「か、夏向! くっつき過ぎだってば!」
「だって、あの人がこうしろって……あぁん! さ、咲ってばどこ触って……」
「どこって……あわわわわわっ! ご、ごめんなさい!」
どさくさに紛れて、僕はなんてことを!
夏向のたわわに実った禁断の果実に触れてしまったではないかぁ――っ!
「あぁん、くんずほぐれつ……えへへへへ。たまりません、たまりませんなぁ」
「ちょ、ちょっと瑠璃さん。これって、本当に撮影なんですよね?」
「もう我慢できません、興奮してきたので私も服を脱ぎます!」
「な、なんでぇ―――――っ!?」
おもむろに服を脱ぎ始めた瑠璃さんに、僕は目を覆う。
しかしこれも彼女の予定調和だったのか、瑠璃さんは事前に水着を身につけていた。紐で結んだ青いビキニは紫陽花を模した柄ということもあり、また彼女の身長も高くスタイルもいいことで、僕の目には瑠璃さんの水着姿が一際映えて見えた。
「さぁ、撮影を始めましょう! 名づけて『ドキッ!? 常夏のあばんちゅーる ~枢木夏向の相方は超新星~ 』。えへ、えへへへへへ。後ろから、前から、じっくり撮らせてもらいますよ――っ!」
その後の撮影は、はたして撮影と言って呼べるものなのかは定かではないが無事に終了し、僕はどうにか山場を乗り切るのだった――。
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