2つの世界

六花 水生

第1話

異世界トリップ。

好みの乙女小説でよく読む題材。

まさか自分がしてしまうとは思っても見なかった。


 私は、本が好き。書店で働きながらちょっとした文をブログに載せたりしている。


 今日も私は、仕事を終え、ちょこっとブログを更新し、いつもどおり自分の布団で寝た。

 翌朝起きたら全く知らない部屋だった。何かの事件に巻き込まれたかと思ったが、いかにも中世な部屋の作りと、窓から見える街には現世ではあり得ないピンクや紫のなど様々な色をした髪の女性たち、小人やドワーフが目に入った。


はい、異世界確定。


 部屋のドアを開け、目の前の階段を恐る恐る降りると、そこは本棚で埋め尽くされていた。そして、カウンターにはイケメンさんが!突然、階段から現れた私に驚きながら

「え、君はどこから2階に入ったの?ここを通らないと行けないはずなんだけど。」

と言った。

(どうやら言葉は通じるようだ。)


 私は寝て起きたらここにいたこと(不法侵入は故意ではない)、全く違う世界から来たこと(ある意味異世界だったレイヤーさんはピンクの髪だったけど)、などを説明したら

私の異世界トリップを信じてくれた。

 そしてこの世界について根掘り葉掘りきいてみると、魔法や王家、騎士、ドラゴンなどが存在することを教えてくれた。

 彼の仕事は見たとおり本屋だが、まだまだ男性中心社会のため、英雄伝説や軍記ものの本しかなく、それもなかなか売れ行きが振るわないことをこぼした。私も仕事は書店員であること、私の世界には女性向けの恋愛小説があることを話すと、新たな市場の開拓になると、とても食いついてきた。

 さらに現世の様子や科学についても非常に興味があるようで、こちらにも色々聞いてくる。本が好きで、異世界人という異質な存在にも寛容で、かつ好奇心旺盛な彼のもと、(ちなみに彼は癒やし系の魔法を使える。後々、その癒やしに大変お世話になる。)異世界での居場所を提供してもらう代わりに、恋愛小説を書くことになった。


(もう戻れないかもしれないなぁ、いい人にファーストコンタクトできて良かったなぁ、好みのイケメンだし。)

なんて思いながらも、急な環境の変化に疲れ、部屋(私が出現した部屋を使っていいといってくれた)に戻るとすぐに寝てしまった。


 翌朝、私は現世に戻っていた。眠りについたままの場所で、ちょうど起きるべき翌朝に目覚めた。

夢だったのか?

 そう思うほどいつもどおりの日常だった。その夜、異世界にまた行くのだろうかと半分期待しながら、また眠りについた(一応寝ても疲れないゆるっとした部屋着を着ておいた)。


 目が覚めるとやはり、本屋の2階、異世界の私の部屋だった。


そんな往復を繰り返すうちにわかったこと。


2つの世界のスイッチは寝る事。


 どうやら前回寝た場所で起きるようだ。そのあたりの時間の歪みはアインシュタイン先生でも説明できないだろう。


 それでも、どちらの世界でも稼いで生きていかなくてはいけない。

現世では、異世界の事を日記風にブログに書いてみた。するとそれに関心をもってくれた出版社の人から、書籍として出版するオファーが舞い込んだ。話をうけることにした。

 その担当の人が、また好みの程よいマッチョ具合の明るいおおらかな男性。

 仕事で親しくなるうちに、きっと信じて貰えないだろうと思ったが、一縷の望みをたくし、

「ブログは実話です」

と打ち明けた。


 彼は信じてくれた。



 世界の行き来は一回ずつきちんと交互になっている。

2つの世界のギャップに疲れ始めた。

自分でできることはなにか、どうしたらいいか?

 2つの世界を近づける。中身ではなくて、私のまわりの環境を。

 異世界では現世のラブロマンスを思い出し、アレンジして出版してもらい稼いでいる。

現世では異世界の生活や流行りの英雄伝説を現世向きにアレンジして、作家として売り出してもらった。


職場環境は近づいた。


あとは心の平穏。

私に関わる二人の男性も、憔悴していく私を心配してくれ、想いを告げられた。


 仕事に理解のある、私の事情を知っている人たち。


異世界の本屋さんと、現世の担当さん。


どちらも大切、愛している。

私は、多情なの?これって二股?

とても悩んだ。


でもこんな生活しているのは私しかいない。


開き直った。


どちらの世界でもこの人といられれば安心できる。


そして二度美味しい。世界が違えば重婚じゃないよね? 


両方の世界で愛する人と結ばれた。


一緒に眠る夜。

起きて一番に目に入るのは、もう一つの世界の一番好きな人。


最高の目覚め。

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2つの世界 六花 水生 @rikka_mio

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