ブルースカイ

アツ

第1話



 私の父は、私が5歳のときに病気で死んだ。約6年分の日記と数十編の歌詞をパソコンの中に残して。



 今から10年前の話だ。



 私は中学に入学したときにパソコンを母から買ってもらった。かなり熱中してやっていたら、この春に母は、父の遺物だと言って、生前使っていたパソコンをくれた。



 母は現在40歳なのだがパソコンがまったく駄目だと言っていた。


 


 私はしばらくもらったパソコンを使わずにいた。古いOSなのはわかっていたからだ。


 2ヶ月位してようやく父のパソコンを開いてみた。



 デスクトップには父が残した日記があった。母はこのパソコンは父が家で仕事をする為に使っていたと言っていた。私の古い記憶の中に、父が部屋でこのパソコンに向かっている背中がおぼろげにある。父は設計関係の仕事をしていたと聞いていた。良く仕事を家に持ち込んでやっていたらしい。



 私は母にこの日記のことを言わずに、毎日、学校から帰宅すると父の日記を読んでいた。内容は特別たいしたことは書かれていなかった。



 ただ、父は音楽が好きだったみたいで、買ったCDの感想や、自分が行ったライブの感想などが良く書かれていた。しかし私には良く意味がわからなかった。



 他には、仕事でどうのこうのということぐらいだった。もちろん私が生まれた後は、私のことを中心に書いてくれてるみたいだった。



 ひとつ気になったのは父は「Snug & raw」というバンドがお気に入りだったらしく、頻繁に観に行ったということが書かれているのだが、そのバンドのライブの感想めいたことは一切書かれていなかった。



 唯一書かれていたのが、ある日のライブで「ギターのjinさんに挨拶をして帰った」という行くらいだった。




 この日記を読み始めてしばらくしたある日、私は母に「お父さんってどういう音楽聴いてたの?」と聞いてみた。


 


 母は「うーんロックかなあ」と答えてきた。「ロックってどういうバンド?」と聞くと、しばらく考えて「・・・ローリングストーンズ」とか好きだったみたいねと言う。私は続けざまに「日本人は?」と聞くと「うーんRCサクセションとか?」母はなぜか若干照れ笑いをしていた。

 


 そういうバンドを観にお父さんはライブハウスに行ってたの?と聞くと母は「そういうバンドはもっと大きなところでやるのよ、東京ドームとか武道館とかね」

 「ふーん、お母さんは一緒に行ったの?」


 「何回かは行ったよ」


 


 父がロック好きだとか言う話は聞いたことが無かったし、それどころか我が家にはCDが一枚も無かった。


 父があれだけ、日記に書くほどに購入していたCDの類は一切この家からは無くなっていた。

 


 母は家ではほとんど好んで音楽は聴かない。私も流行の音楽のCDは持ってるが、大体はネットか携帯でDLして済ます。

 


 どうして父が持っていたCDが無いのか?私は母に聞いてみた。

 


 「どうしてって、お母さんは興味ないし、狭い家で置く場所もないし、落ち着いてから全部売ったのよ、いくらにもならなかったけど。1000枚くらい持ってたからねお父さん」

 たしかに、この狭い家にそれだけの枚数のCDを保管しててもなと思った。

 


 「あなたが将来ローリングストーンズやロックを聞くとわかっていれば売っちゃわなかったのにね」と母は言いながら吹き出していた。

 「しかし今日はやけにお父さんのこと聞くわね」母はそういいながら、中断していたアイロンをかけ始めた。




 ほぼ月に2回くらいはどんな日記にでも「Snug & raw」というバンドのライブを観に行ったという記述があった。



 私は毎日このバンド名で検索をしたり、ファンを装っていろいろな掲示板に「知りませんか?」と書いた。しかし、出てきた情報は「最近」のバンドだったり、高校生のコピーバンドだったり、到底ロックと呼べるものではなかったりといろいろだった。




 父の日記の中で、「私」が登場してからというもの、このバンドの記述は無くなっているので、少なくとも15年と少し前に存在したバンドに間違いはないはずだった。




 「スナッグ アンド ロウ」



 一体このバンドはどういうバンドだったのか?父をとりこにした理由はなんだったのか。私は無性に興味をかられた。



 


 「絶対に見つけてみせる」

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