#238:瞑目沈思な(あるいは、終末へのエスコート)
「第3問。『ミロちゃん、コニーさん、ルイさんの三人の娘に、男であることを強要したのは何故か』」
その質問が僕の口から放たれた瞬間、ミズマイの顔が強張ったのを僕は見逃がさなかった。そもそもどうしてそんなワケわかんないことをやっているのか。理由を聞くまでは、この最低のクソ親を延々と苛むことも辞さない構えだ。
そんな本気を僕の顔つきから見て取ったのか、ミズマイは口をあわあわさせて何かを喋ろうとするも、そこから意味ある言葉が出てくることは無かった。しょうがない。
「……最後も『大』で」
僕の非情の指示に、丸男は阿修羅像くんの下段の両腕、忍びの者が印を結ぶかのように指を組み合わせ、両人差し指のみをぴんと伸ばしたそれを、自分の胸の前で構える。そしてその腕の付け根から伸びるケーブルは、今度は電流を伝える役目を担い、本体の方へ接続されている。
これまた最大奥義級。実戦でも警戒されていたけど、「チョキ」は本当にヤバい。それの最大級をそのダメージを負った体に食らったら、もうどうなるか分からないぞっ!!
「……」
恐怖に身を震わせるミズマイだったが、やはり言葉が発せられる事は無かった。どうした? 何故そこまで頑なに拒むんだ? もうこうなりゃ揺さぶるしか無い。
「これの威力は分かってるんだろ? 答えろっ!! 答えれば解放してやるっ」
僕が突きつけた最大限の譲歩条件にも、ミズマイは顔を痙攣したかのように歪めながら無言のままだった。こいつっ……!! だったら言うまで、「大」を撃ち込み続けてやるっ!!
「……ま、待ってください」
僕が自分の中の暴力衝動に身を委ねようとした、その時だった。リング上の片隅から、弱々しい女性の声がしたのだった。ルイさんか。初めてその声を聞いたけど、声も何て言うか、はかなげだ。身に着けたチャイナ服のエメラルドグリーンが、照明を受けて煌く。
「……その人を許してあげてください。私が全て悪いんです」
ルイさんがミズマイが拘束されている装置の所まで歩み寄っていく。驚いたようにそれを見やるミズマイの顔は、疲労のせいか、最早くたびれた一人のおっさんのそれにしか見えなくなっていた。
「私を産んだ直後、私の母は発作で亡くなったと聞きました。その前から心臓の方が悪かったそうなんですが、妊娠中は投薬も控えていたらしく……母は、男の子供が欲しかったそうです。というか、お医者さんの見立てでも男で間違いないと思われていたらしく……だから、名前も生まれる前から考えていたそうです、『
ルイさん……待てよ、リュウイチ……リュウイ……ルイ。
「父が素敵な名前をつけてくれました。母が考えてくれた名前を、アレンジっていうんですかね? 私に、母の思い出を込めて。ある時その事を知ってからは、私の方から男の子として振る舞うようにしてたりもしたんです……馬鹿ですよね。逆に父を傷つけていたのかも」
ルイさんは目を伏せながらも、少し微笑んでいるようだ。球場内は静まり返ったまま、スポットライトに照らされた、ひとりの女性の言葉に耳を傾けている。
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