#229:能事畢矣な(あるいは、レイジ、アウトぉ~)

 機は熟せり―――


「『溜王戦』っ!! いよいよ最終決勝だっ、このやろう!!!」


 最終戦の実況は、春中アノさんこと、ダイバルちゃんだ。相変わらずの電飾を身に纏わせての登場だったけど、装備増えてない? ビカビカとあくまで下品にピンク・黄色・緑と光る衣装が、遠目にも目に刺さる。


「……」


 柄にも無く、静かに闘志を燃やす僕だが、気負ってるのがバレバレだったのか、右隣に寄り添ってくれていたサエさんに、落ち着いてとばかり背中をさすられる。大丈夫です。いい感じの緊迫感・高揚感ですから!!


「決勝は、オーソドックスなDEPの撃ち合い。それは変わらないのは、先刻ご承知よぉん」


 左隣でむほりと不気味にほほ笑んだジョリーさんの言う通り、決勝は予選の一回戦、チャラ男と戦った時のように、シンプルな撃ち合いのようだ。グラウンドの中央にはリングと、そのトップロープ上から屈強なアームで降ろされた、「対局席」が向かい合っているだけの、何だか懐かしさすら感じる「対局場」が用意されていた。


「ま、おあつらえ向きってとこですかね」


 と、僕はまたしても普段のキャラにないようなニヒルな感じを出すものの、不安になったサエさんに右瞼を無理やり開かされ、瞳孔が開いていないか確認される。いや、操られているとかそういうんじゃないですよ!! 正気正気!!


「……」


 リング脇、僕ら三人は意を決してそこに並んだ。観客の声は、質量を持っているかのようにぐわあと覆いかぶさってくるかのように、大きく響いている。ついに決勝。それを実感させられるわけで。


「それでは、チームを紹介するっ!! チーム38っ!! 瑞舞ファミリーのっ!! お出ましだぁっ!!」


 今までと比べて割とあっさりめの紹介だった。しかし途端に流れる激しいビートのBGMと、乱れ飛ぶカクテル光線。まあ、この待遇の差にはもう慣れたよ。それより対戦相手、「ファミリー」って、一体? 外野方面からリリーフカーに乗って、対戦相手の3人は華々しく登場してきたわけだけど。


「……っは、っはっ、はっ。やあやあ、お初にお目にかかる。ムロトくん?」


 僕にいきなり話しかけてきやがった。すかしたサングラスをかけた、五十くらいの背の高い男だ。真っ茶色に染めた髪は軽くウェーブがかかり、同じ色に染まった、口の周りと顎とを覆う髭はきちんと揃えられている。右耳には銀のピアス。高そうな薄茶色のスーツを身に纏い、ごつい葉巻を口にくわえ、こちらを睥睨してくる。わかりやすいな!! こいつがラスボスか。


「み、ミロちゃん……!?」


 それよりも衝撃はその男の右隣にいた人物だった。前々戦のロボットバトルで対局した華奢な少女が、じっと目の前の一点を見据えながら、棒切れのように佇んでいた。黒一色の詰襟の、学生服のようなものを着ている。いや着せられている、か。僕の呼びかけた声にも全く反応しない。


「くっく、だ~いぶ、キミに感化されちゃったようだから、ちょいときつめに『サブロー』になるように仕立てたのさぁ。リベンジマァーっチ。面白いことになると思うよ?」


 目の前のクソ男が、厭味ったらしい口調でそう言うが、ミロちゃんに何をした!?


「お前は……っ!!」


 思わず出てしまった僕のその声に応じるかのように、そのクソ男は殊更に余裕ぶった素振りで右手を胸に当て、軽く会釈をしながら自己紹介をしてきた。


瑞舞ミズマイレイジ。元老を束ねる者さ」


 それプラス、ミロちゃんとコニーさんの父親ってことになる。実の娘たちに、男であることを強要させた、信じられないほどのクソ親だ。


 ……そして、アヤさんを弄んで捨てた、最低の野郎。


「……」


 アオナギや丸男から聞いて、薄々分かっていたことながら、いざ目の前にすると、顔が自然に歪むほどの、どうしようもないくらいの怒りがこみ上げてくる。


 なるほどなるほど? 最終決戦にふさわしい相手だよ。こっちはもう、最初から全力で行かしてもらうからなぁぁぁぁぁっ!!

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