#219:即断即決な(あるいは、尾形光琳死んじゃいや!)

「……尾形光琳の『風神雷神図』ってあるじゃないですか、あれの雷神の方の……風神の方じゃないですよ? でっぷりした腹に出っ張った臍を見た時にですね、ふふ、下品な話ですが、膝までぐしょぬれになってしまいましてね……」


 琳派すら貶める僕の渾身の淫獣DEPが、光刃と化して、アヤさんへと放たれる。行けっ!! 貫けぇぇぇぇぇぇっ!! しかし、


 <ムロト→ハツマ:56,999pt>


 あ、あれ? それほどまで評点もらえなかった? ぎりぎり半分超えるくらいだ。まずい、今度こそ僕は、飽きられ始めているっ…!?


「初摩選手っ!! 相殺DEPを5秒以内にお願いしますっ!!」


 サエさんの声に、僕の視界には入っていないが、2位につけているはずの初摩さんが応じたようだ。僕のインカムにも、その蠱惑的な、引き込まれるような声が響いてきたわけで。


「……私はぁ、男の子も好きだけどぉ、女の子も大好き、なの!!」


 ……はっきり、まずいと感じた。僕ですら最大評点をつけそうなくらいの、可愛らしい、超絶キューティックヴォイスが、脳を揺さぶらんばかりに響いて来る。あかんて!!


 <ハツマ相殺:91,002pt → ムロトにカウンター発動>


 左手のバングルに、無情の文字が明滅する。いや、「カウンター」とか聞いていないんですけど!!


「……言ってなかったけど、相殺されたら、攻撃を仕掛けた側に『10,000ボルティック』級が跳ね返っていくんだからね!!」


 それを早よ言っとかんとよぉぉぉぉぉぉぉっ!! 僕の内心の叫びは全く無視され、


「はぁぁぁぁいくろっすびぃぃぃぃ!!」


 図らずも口から飛び出た叫びは、両膝に与えられた尋常じゃない威力の電撃によるものであって。クラウチングスタート状態のまま滑走していた僕は、次の瞬間、両膝が自分の意思とは無関係にぴんと伸ばされ、腹を思い切り足場へと打ち付けられたうつぶせの姿勢のまま、くるくると回転を始める。


「……のおおおおおおおっ!!」


 自分が今、コース上のどこにいるのか全く分からない。足場から飛び出してしまうことだけはっ、避けなければっ…!! 必死で両掌を開いて、足場に貼り付けるように突っ張り、ままならない両脚の爪先も足場に押し付け、何とか回転を止めようと踏ん張る。キュキュキュキュキュという耳障りな音を残しながらも、何とか僕の体は足場の上で止まることが出来たようだ。


「!!」


 しかし、一息ついた僕は、自分の身体がアウトコースぎりぎりで何とか留まっていたことを知る。思わずオバヒの悲鳴を上げそうになるが、


「……ムロト選手、何とかコースアウトは免れたがっ!! 後続が抜きにかかっているんだからねっ!!」


 サエさんの言う通り、第4コーナーの中腹で止まってしまった僕を、軽々と白いウェディングドレス姿のアヤさんが抜き去っていく。そしてその直後、カウガール姿のコニーさんも。悲鳴を上げてる暇は無い。


「……」


 立て直さないとっ!! というか迂闊なDEPは墓穴を掘るっ!! そして淫獣DEPは飽きられているっ!! 学習したよ、高い授業料だったけどね!!

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