#218:前途有望な(あるいは、届けたい、何かを)
先頭をひた走る僕と、後続勢との距離差は、約半周。一周が約300メートルと先ほど説明があったから、つまり150メートルほど、僕は先行していることになるのだろうか。
「……」
これぐらいのアドバンテージがあれば、と思う反面、そんな一筋縄ではいかないだろうなどうせ、というような思いが半々だ。というかそこまで思考に集中できないというか、気を抜くとコースの外側へと軽く持っていかれるかのような高速の、切羽詰まった臨場感みたいなものに、僕の頭と体は大部分、支配されているわけで。視野が極端に狭くなるような感覚。周りの音が聞こえなくなるような狭窄感。
ひとつ疑問に思うのだけど、この後ろを振り向くこともままならない状態で、「攻撃対象」を指定することは非常に困難、いや、不可能だということ。先ほど説明されたのは、「左手の指を曲げることで対象を指定する」「自分を除いた1位が親指に対応、2位が人差し指、以下同文」というところ。めまぐるしく順位は変わるはずだから、やっぱり着実に指定することは無理なんじゃないの?
<少年>
と、そんな自分の滑走にいっぱいいっぱいの僕の耳に、落ち着いた響きのアオナギの声が聞こえてくる。
<やはりお前さんは持ってるぜ。DEP着手時間もおそらく溜まってるんだろ?>
アオナギは、この初見の状況に、いち早く対応している? くっくといつもの笑い声が聞こえてくるけど、DEPチャージOKということも把握している。ということは。
「アオナギさんっ、現在の順位をっ!!」
僕はヘルメット内のインカムに向けてそう叫ぶかのように告げる。僕の現在位置は第3コーナーを何とかやり過ごした直後。すなわち第4コーナーに入るまではおそらくあと何秒かの猶予が。この状況でDEPを放っておきたい!!
<お前さんを除いて、初摩1位、瑞舞2位だ。頼むぜ我らがエース>
さすがだ。僕が言わんとするところを的確に汲んで、最速で返答してくれた。これに応えないわけにはいかないっ!! 「着手ボタン」は事前の説明は無かったものの、右手を覆うグローブの人差し指の第一関節あたりに、それらしき赤い円いボタンがあったのでそれと悟る僕。迷わずそれを思いっきり押し込み、同時に接地させていた左手を軽く上げ、「4」という数を示すように親指を折り曲げる。これで「攻撃対象」はアヤさんになったはず!
「ムロト選手着手っ、ターゲット:初摩選手、なんだからねっ!!」
サエさんの実況も、僕が間違っていないことを告げる。よし! 僕はコースの行き先をしっかりと見据えながら、渾身のDEPを撃ち放つため、大きく息を吸い込んだ。
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