#199:不透明な(あるいは、DX、鳴らして)

 

 開始時の立ち位置とは今は真逆に近い状況。僕が盤上の上辺中央近く、相対するミロちゃんが下辺の中央近くで互いの動きを牽制しあっている状態だ。運営側の表現をあくまで踏襲するならば、「3二ムロト」「3四ミズマイ」か。距離は目測10m。


「……」


 形勢は完全に差がついている。エネルギー残量は91%と72%。スタミナ勝負ではもう勝てない。……というか、この「戦闘フェイズ」とやらは、いつまで続くのかな? エネルギー切れるまでやるというのなら、もはや僕の負けは必定ですよ?


「ああーっとぉ……言い忘れてましたが、『フェイズ』の制限時間は『5分』……つまり残りあと『3分10秒』となりますねっ。残ったエネルギーを次の『戦闘フェイズ』に持ち越すことは出来ませんので、ここ一番、気前よく使ってくださいね!!」


 青色ネコ耳バニー姿の猫田さんが、僕の心を読んだかのような後付けルールを説明してくれるけど。


 3分……結構あるな。このまま逃げ切る作戦にしたらいいのか、いや、それは真っ先に読まれて全力ラッシュを掛けてこられそうだ。逃げ腰で臨んでも相手に付け込まれるだけっ……!! 


 自らの体を張って、タイマンまで持って来てくれたアオナギ・丸男に報いるためにも、そんな消極的に負けることだけは出来ない!!


「……」


 考えろ、力は互角。なら「技」は? 確か猫田さんが開始時に「必殺技もあるんですよっ!! エネルギーを20%消費しますけど……」みたいなこと言ってなかったっけ? 僕の乗るこの「四角型」の技は確か「ダッシング何とか」って言ってた。


 ダッシング……ダッシュってことだよね。あくまで推測だけど、「前方への高速移動」、これが可能と見た。掟破りの「ペナルティノックバック」とは異なる、正式な「技」……そして二本の腕があってこれらがエネルギーは5%も消費するものの、こちらの思惑通りに結構自在に稼働させられるということ。……これらをうまいことカマせれば、いけ……るはず!!


「……」


 「必殺技」を発動するための手段はすぐに分かった。操縦席の右側にトラテープで囲われた「必」と書かれた大きな真っ赤な丸いボタンがあったからだ。でもその佇まいが自爆ボタンとかに似ているけど大丈夫かな……。そして両腕の操作は突き出ている左右のレバーを使うんだろう。ただし動かすだけで各5%消費なので、練習とかそういうことは出来ない。ぶっつけで……やるしかないんだ。


「ああーっとお、お互い向き合ったまま微動だにしないぞっ!! このままこのフェイズは終わってしまうのか? 否!! ……白熱が身上のこの『ロボティック=バトル』……そんなしょっぱい展開にはならないはずっ!! いや、ならないでぇっ!!」


 猫田さんの魂の叫びがこだまする中、僕は真っ向のミロちゃんをしっかりと見据えたまま、仕掛けのタイミングを計る。そんな緊迫の中、ふと頭をよぎったのは、この対局方式の正式名称って誰もが忘れているようだけど「DEP戯王・DX」じゃなかったっけということ。いや雑念は払うんだ、集中っ!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る