#197:非合理な(あるいは、ロボティックバトル、レリゴー)

 

「盤上にはもはや二体の玉のみっ!! 躍動する二体のロボの!! 超絶戦闘がいま、始まる……っ!!」


 もはや言い逃れが難しくなってきた姿へと華麗に脱皮(?)を果たした実況少女、猫田さんの声が球場内に響き渡る。


 しかし、その過分な煽りとは裏腹に、僕、そしてミロちゃん共に、未だ互いの出方をうかがってロボを1mmも動かしてはいない。約20m先にミロちゃんの搭乗する黒い四角型のロボが見えるけど、相手の動きを待った方がいいのか? こちらから討って出た方がいいのか? 決めかねたまま行動に移せない僕がいるわけで。


「……」


 しかし、作動確認も兼ねて動かした方がいいかも。僕はそう決めると、そろそろと右足のペダルを踏みこんでいく。僕の乗る白い四角のロボはそれに呼応して前方へと緩やかに発進し始めた。座っている電動車椅子のような装置の車輪が滑らかに回転している。じわりじわりと探るような速度で、僕はミロちゃん機との距離を詰めにかかる。


 対するミロちゃんはまだ動かそうという気配はないようだ。ただ、接近してよりはっきり見られるようになったけど、その泡食っていたさっきまでの表情とは異なり、真っすぐに僕を見据えたその瞳には強い決意じみたものが感じ取れた。うん、やる時はやるタイプの子だよね、ミロちゃんの人となりは。でもそもそもこのうら若き少女に、この伏魔殿的ダメの何を背負わせるつもりだ、元老院ッ!!


「……」


 と、僕は相手に対するかなりのやりづらさを感じつつ、無理やりその矛先を元老院という腐れ組織に向けて闘志を保とうとしているけど、やっぱり体が非常にだる重い。こりゃ短期決戦でさくりと決めないと。要は接近して、自分のロボの拳を相手のボディに当てるだけだよね?


 盤上の上辺、端の方に位置するミロちゃんは、後方へのノックバックを食らったら、それこそ1秒も保たず水路へと滑落するはず!! かわいそうだけど、なるべく苦痛は与えたくないからね。と、僕はその時までミロちゃんのことをきちんと把握せずに、その雰囲気や佇まいから、勝手に、無意識に舐めていたわけで。


「!!」


 何の予備動作も無いように見えた。ミロちゃんが乗る黒四角ロボは、僕が出方を伺っているその瞬間に、瞬時に、そして静謐に、体の向きを変えていたようだ。対応する間もなく、その黒いボディが僕目掛けて突っ込んでくる……っ!! しまった、これさっきうちの二人がやってた戦法じゃないか! 知ってながらまさかやってくるとは思わなかった。いや、仕掛ける素振りすら見せてなかったじゃないかっ!! 何だこの手慣れた感っ!!


「ぐうっ……!!」


 思わず漏れ出た唸りと共に、僕は操縦桿を限界まで右に倒しながらアクセルも同時に踏み込む。がつんと体に響く衝撃が襲ってくるけど、直撃は避けられた。ロボの左半身に強烈な体当たりを食らった格好だけど、真後ろに跳ね飛ばされるのは回避……っ!! いやしかし、それを見越したかのように、ミロちゃん機は僕のロボに的確に背中を向けると、またしてもその時速60kmと言われていた強力な突進を見舞ってきたわけで。


「がっ……」


 今度はかわすなんて芸当は無理だった。真正面からの衝突を受け、僕の機体はそのままぐいぐいと押されまくる。盤面の右角(2二ムロト)辺りでの押し相撲の体でぎちぎちとせめぎ合う僕とミロちゃん。こ、これやばい。ペナルティと銘打ってたこの「後方への時速60kmノックバック」が最強の武器じゃないか!! 元老ーッ!!

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