#189:非公開な(あるいは、ティーンエイジ・ミュータンス)

 

「対局っ、開始しますっ!!」


 猫田さんが初期のきびきびさを取り戻したかのような張りのある声でそう告げた。良かった。無茶なネタをぶっこむとかそういうことが無くて。


 改めて両チームの初期配置を確認しておく。


 5×5の枡目を上空から俯瞰した目線で、手前を僕らチーム側の陣地とすると、一番下の段の中央に〇丸男(3五)、その両隣に△アオナギ(4五)、□僕(2五)と横一列に並んだ布陣を取っている。何が最善かはわからないので、とりあえず隙のなさそうなフォーメーションに構えてみたけど、どうなんだろう、これ。


「……」


 相手チームはちょうど丸男の真正面に■ミロちゃん(3一)が大将然といる。そこから少し離れた斜めの右左に、●キサ=オー(5二)、▲ギヨ=ヨ(1二)が大きく展開した形だ。うん、まったくもって何が有利とか不利とかは全然わかんないやー。


「……それではいつも通り、自分の手番になりましたら、お手元の『着手ボタン』を押してDEPを放ってくださいね!! 持ち時間は一手30秒未満です!!」


 よしよし、後付け細則も今回は想定範囲内だ。特に問題はなさそうに思える。


 <1st:キサ=オー着手>


 バックスタンドのディスプレイにその文字が大写しになった瞬間、カーンっとプロレスのゴングのような耳に響く金属音が鳴った。いよいよ対局開始だっ!! 初手はA級八段の肩書を持つという、外見からは何も覇気を感じない男、キサ=オー、どう来る?


「いや~どうも~、若い頃は私はこれでもですね、髪の毛それこそクシ通らねえよ、どうやって梳かすんだよ絡まって痛えよ、とか思ってたんですけどー、ある時、何気なく振りかけたリキッドの整髪料がたらりと顔面に一筋流れ落ちた時にーハゲる前兆を感じたというー、そんな哀しい話ですー」


 キサ=オーが情けない顔をさらに眉をㇵの字にしながら、案の定のネタをぶっ込んでくる。おおー、自分からいくんですねそれ~、まあそこを武器にしないと何のためのそのドタマかって話ですよねー、と僕が妙に納得を覚えた中、


 <1:キサ=オー:75,003pt>


 割と良い感じの評点が集計され、大型ディスプレイにどかんと示される。うーん、これはまあ鉄板ネタなんだろう。まずまずの高得点と思われる。


 にやり、と余裕の笑みを浮かべつつも目は完全に据わってる感じのキサ=オーの顔がアップで抜かれるけど、何か夢に出てきそうなフォルムなわけで。何というか虫歯菌みたいな恰好をさせたら日本一似合いそうな、そんなどうでもいい妄想が頭に浮かんで来てしまう。いかんいかん、やる気出せ、僕。

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