#166:哀切な(あるいは、プリズナーオブパスト)
「結局は元の三人のままに落ち着いた。三人が三人とも、複雑な感情を抱えたままだったけどよぉ。そんな所々でふわふわした感じだったが、高校生活は概ね楽しかったと思うぜ。このDNCとも出会えたことだしな」
金銀の双子の銀髪の方のミリィの顔形をした僕の双子の兄、という最早何者なのか説明するとかえって分かりにくくなるけど、つまり翼がそう静かに語り続ける。
「DNC」とはダメ人間コンテストのことで、すなわち今行われているこの「溜王戦」もその「DNC」に含まれる。解説している場合かはさておき、ひとまずは翼のこれまでの事を聞いておきたい。周りの観客たちも押し黙ってその話すところの行く末を見守っているようだ。この、おそらくはハッピーエンドにはなり得そうもない結末を。
「リミとリタは、この業界ではその時すでに結構な知名度を持っていた。公式での対局はもちろんのこと、ネットでの対局やら、自分らで配信していた動画やらでな。『ミリ★タリ☆シスターズ』と名乗った二人は、軍服を模したコスチュームに身を包んだ美少女姉妹アイドルとして急速に人気を上げていったんだ。折りしもダメ業界にアイドル化の風が吹き始めてた頃の話だ。いっときは二人が参加した公開対局に二万以上の観客が入ったそうだぜ。絶頂期。俺もそんな二人にくっついて、東京とか、大阪とか、色々な所を巡った。毎日がバカ騒ぎみたいな、そんなうわつきまくった日常だった。あの日までは」
翼の顔がやや歪んだかのように見えた。やはり、何かあったことは確実なんだ。場は静寂に満たされ始めている。
「東京での対局を終えて空港に向かった俺たちは、ターミナルの正に出発ゲート前、人がごった返したところで、一人のファンと名乗る刃物を持った中年男にいきなり襲われた。迷彩服を纏って突進してきたそいつが構えたミリタリーナイフから、俺は思わず身を引いてしまってた。リミとリタ、どうやら二人とも狙ったと後の供述からはそう伺えるが、より男に近い方にいたリミが滅茶苦茶に振り回されたそのナイフに顔面と胸、腕、腰の数か所を切られた。動けなかったし、声すら出なかった。一瞬、意識も飛んでいたのかもしれねえ。嘘みたいな多量の血だまりの中に横たわるリミと、それを必死で抱えて手で傷口を押さえているリタの姿がその次の記憶になっている。リミは一命を取り留めたが、顔、身体、そして心に傷を負ってもう人前には出られねえ。リタはその時のショックで精神を病んじまった。あの時、俺が盾になれば……俺が……刺されていれば……こんなことにはならなかったはずなんだ!!」
咆哮するかのように痛切な叫びが、翼の首に巻かれたチョーカーから放たれている。少女のような声のままで。
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