#165:相対な(あるいは、ツイン告ッター)
「リミとリタと出会ったのは、お前と別れてからすぐの話だ。親父の仕事の都合で沖縄に渡った俺は、そこで出会った金髪の少女にひと目で恋に落ちた。空白感を埋めたかったっていうのも無くはなかったと思うけどよ、でも心底、俺は惚れちまったんだ」
そんな風に語り始めた翼の顔は、何というか今までの無表情とか険のある顔つきとは全く違った優しさを宿していたわけで。というか沖縄にいたのか。それも初耳だ。
「県立の工業高校に通わされていた俺は、悪い遊びも覚えたてで、ある日、下手うって地元の不良らにボコボコにのされて路地裏に転がされてたんだが、そこに何故かやって来たんだ、金髪と銀髪の、人形みてえに整った顔だちの双子の姉妹が」
ちなみに翼も僕に似た平凡な特徴のない顔だった。性格はまったく違ってたけど。
「よそ者の俺が珍しかったって言ってた。妙に気になるとも言われた。その日、その近くの双子の家まで肩を貸されて連れていかれて、怪我の手当てをされた時にはもう俺はその二人に強く惹かれていた。どっちも屈託なくよく笑って、くだらねえ事を掛け合い漫才みてえにくっちゃべってた。俺のすさんでた気持ちも徐々に癒されていったんだ。あの頃がいちばん楽しかった。いちばん……充実していたとも思う」
翼の言葉はしりすぼみに小さくなっていってる。場の空気も段々と静かになっていってる。リミとリタ、その双子の内のひとりは、僕の右斜め前にいる金髪の少女のことなんだろうけど、今の彼女は笑いもしゃべりもしていない。
「一緒に街の盛り場に繰り出してばかやって遊ぶうちに、俺の心はリタの方に傾いていった。どっちも魅力的なことには違いはなかったが、時折見せる寂しげなリタの表情に引っ張られたのかも知れねえ。ま、その辺の恋愛感情ってやつは説明つかねえもんだろ?俺は衝動のままある晩リタに自分の気持ちを伝えたが、あっさり振られちまった。そしてリミが俺の事を好きなことも合わせて伝えられた。間抜けな話だ。俺は自分に寄せられてた好意に気づかないまま、そいつのいちばん身近な奴に心奪われてたんだからよ」
淡々と話そうとしているものの、翼が感情を押し殺しているだろうことは、僕には痛いほど分かる。そしてこの話が、ただの過去の恋愛話に終わらないだろうことも予感している。
「ぐちゃぐちゃの気分のまんま二三日、今度はリミの方から告られた。はいそうですかと受け入れるわけにもいかなかったし、何かよくわからねえけどイラついた。バカだよな。俺はてめえのことしか考えてねえ、くそ野郎だった」
ふーん、双子両方に告ったクソがここにいますけど、ふーん。僕は意図せず平常心を揺さぶられそうになり、極めて深い深呼吸で自分を立て直すことに集中を強いられてしまう。
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