#158:氷結な(あるいは、ふたつある!)

 <1st被指名者:ハカゼイン:着手>


 なるほどー、攻撃者が指名した「被指名者」が直後の着手になるんだー、前回と同じだけど初めて知ったわー。と、僕が毎度のことながらノー詳細説明の運営のやり方に異を唱えようとしつつも無駄なんだろうと飲み込む、という作業をしている間に、白金の輝きを身にまとった三十路の歌姫、葉風院ミコトが天を仰ぎつつ、ゆっくりと深く息を吸い込む動作をする。


 来る……思わず身構えてしまうが、それほどの得体の知れない迫力がこの人にはあるわけで。


「ワタシのぉぉぉぉぉっ!! 歌をぉぉぉぉぉぉっ!! 聞いてくれぇぇぇぇっぇぇぇっ!!」


 次の瞬間、その細い身体からどのようにしてその破壊的な、聴く者の身体をびりびり痺れさすような声量が出ているのか全くわからないけど、とにかく凄まじいとしか表現できない歌声が会場に響き渡った。


 何たる……何たる音量。そして殴られたかのような衝撃と、次の瞬間、快感にも似た開放感が僕の神経の深い所を襲う。揺さぶられる。何というか、本能を。人間のコアを。


「……」


 会場にいる誰もが、葉風院の声に圧倒され、歓声やら何やらを忘れてしまう。場は、一瞬、誰もが息継ぎをするかのように、その音の全てを止めた。それを狙っていたらしい葉風院は、艷やかな笑みを振りまくと、一気に高音から攻めてくる。


「……兄のぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!! 玉をぉぉぉぉぉぉぉぉっ!! 皆に見せぇるのぉよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」


 あれ? 確かに素晴らしい高音のビブラート。だけど……


「……兄のぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!! 玉はぁぁぁぁぁぁぁぁっつ!! ふたつぅもあっ、るっ、のぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!! フオオオオオオオオオオオオオっ……!!」


 ダメだ。これまたダメな意味でのダメだ。歌声は世界トップレベルで、歌い上げる内容は下ネタ、さらに替え歌と、この落差、ナイアガラ級。


 <ハカゼイン:72,303pt>


 しかしアオナギを軽く上回るこの評点。内容はともかく、心を、魂を揺さぶられるという点では、評価はそりゃ高くもなろうだけど、あ、あんな詞いいの!? 不安になってきてしまう。そして普通ふたつあるものだとも思う。


「勝者、葉風院選手っ!! アオナギ選手の「胴」に、800クラッシュがブーストっ!!」


 実況少女リアちゃんの言葉と共に、


「ぐっ……!!」


 アオナギの左肩に付けられた銀のプロテクターが衝撃音を発すると共に、激しい震動を起こした。打撃を模した衝撃が与えられるんだよね……800ってかなりのものなんじゃ……アオナギが一瞬、苦悶の表情をするけれど、すぐに大丈夫だ、という風に頷いてみせる。やっぱり要は殴り合いだ。これはもう腹を括るしかない。


「……」


 次の番手は、葉風院が「被指名者」としてかぶったから、繰り上がりでサイボーグ双子の銀色の方、ミリィということになる。僕に突っかかってきた方だ。左前方を伺うと、まっすぐに僕を見つめてくる銀色の目と目が合ってしまった。これは……戦いの予感……っ!!

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