#151:寒風な(あるいは、そなち、いぃーね)

 白金歌姫、葉風院ミコトは、未だ鳴り止まぬ拍手と声の中、重低音のサウンドに体をくねらせるようにして踊り続けているけど。そしてその両隣の金銀双子は無表情で素立ちと。


 何だろう、何が正しくて、何が間違っているのだろう。そんなぐわんぐわんと脳を揺さぶられるような感覚に捕らわれつつある僕に、とどめとも思える一撃がやって来た。


 この畳み掛けるパターンは前にも体感した。ダメ界お得意の追い討ち攻撃だ。


「それではみなさーんっ!! 決勝第5試合を始めまーすっ!!」


 爽やかな声は黄緑実況少女、池田リアちゃんで間違いは無かったのだが、観衆の前に姿を現した、その出で立ちが僕らの度肝を抜くものだったわけで。


「実況はわたくしっ!! 池田リアが務めさせていただきますっ!!」


 満場の舞台に躍り出たのは、黄緑を基調とする光沢のあるワンピースの水着に身を包んだ、あの、清純そうだった実況少女の艶かしい肢体であった。


 ええー、決勝になるとダメのシフトアップが図られる実況少女たちのコスチュームだったけど、これは流石に……と思わず引いてしまうほど、その超鋭角のハイレグ水着に場もどよめく。


 リアちゃんは肩にはこれまたメタリックな光沢を放つガウンのようなマントのようなものを羽織って、頭には何故か王冠、そして手には錫杖と。ミスなんとか的な格好……昔の。


 り、リアちゃんはおそらく無理をしているっ!! しかし……それはまだ甘い考えであることをこの後僕らは思い知らされることとなる……次の瞬間、


「リアなのにぃ〜Tフロントっ!!」


 弩級の衝撃が会場を襲う。リアちゃんはその精一杯の雄叫びと共に、往年のロシア体操選手のレオタード形状を模した、がに股になってぴんと指を伸ばした両掌で鋭角な下向きの三角形を形つくる、あの禁断の技をやってみせたわけで。


「……」


 会場を今年いちばんの寒波を伴った沈黙が包み込む。葉風院も流石にその顔を引きつらせていた。音楽もいつの間にか止んでいる。


「だ、だって、お前はいちばん特徴弱いって言われたんだもんっ!! これならいけるって言われたんだもんっ!!」


 真っ赤になったリアちゃんの瞳に涙が盛り上がってくる。どうせまた元老の差し金だろうけど、酷いことをする……っ!! 僕は、泣いているリアちゃんも(そのプロポーション含めて)いいな……などと思いつつ、ゆっくりと後ろを振り返ってみたりするのであった。


「……」


 そこには親指を突き立てて実況少女に向かって精一杯の下品な顔つきを向けた二人のおっさんがいるだけであって。まあこれでやる気入ったら儲けものかも知れない、と思うことにする。


「こ、こ、今回のルールはっ!!」


 ここに来るまでに相当な脱力感を覚えていた僕だが、やはり重ねてくる時は重ねてくるのが倚界クオリティだ。リアちゃんの必死の進行と共に現れた巨大ディスプレイ上の文字は、これまた群を抜いてひどかったわけで。


 <DEPデプ戯王ぎおう


 「DEP戯王」と聞いて……すぐある予感が走った……この勝負、またしてもその要素が生かされる可能性は紙のように薄いということ……おそらくボルテージを上げて物理で殴り合う展開になるだろうということ……っ。


 だんだんと僕の顔も、金銀少女のそれのように表情が死に始める。


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