#137:辞世な(あるいは、俺は戦死)

 僕、VS、シバ=ンシの対決は、僕の大勝という形の予想外の結果を迎えた。何だろう、いちばん手ごわそうな相手だっただけに、肩透かしというか、本当にいいの? 的な妙な感じが僕を包んでいる。


 いや、いいんだ。ここでもやっとしている場合じゃあないよね。そんなぐるぐる思考の僕を置いて、シバ=ンシ後ろの阿修羅像くんがじりじりと迫ってくるのが、大画面にも映し出されている。


 6本の腕、その最下段に位置する、忍術の印を結んだかのように組み合わされた両手の、ピンと立てられた人差し指がゆっくりと離れ始める。その間の空間にバチバチと青白く爆ぜる、スタンガンのような火花が見て取れた。これやばい。やばいてぇぇぇっ!!


「……『ダメと落ち ダメと消えにし わかみかな』」


 しかしシバ=ンシはその見た目とのギャップも甚だしい、詫びさび溢れるいい低音で辞世の川柳(というか上の句?)らしきものをつぶやいただけだった。


 その瞳は何故か非常に澄み切っていて、何かを悟ったかのような、よくわからない清々しさを湛えていたわけで。あなたは……本当に……噛ませ犬的存在だったわけですね……。そして、


「!!」


 情け容赦なく、阿修羅像くんの電流を込めた指弾が、シバ=ンシの局部へと撃ち込まれていく……っ!!


「いまわのこともほぉぉおおぉおっ!!」


 菊門と直腸を貫いた時……!!


「ダメのまたダメへぇぇぇぇぇっぇぇぇっ!!」


 オゥル・バラァー・シバ=ンシ、闘死……っ!!


「……」


 その身体は一旦、大きく弓なりにのけぞったかと思うや、手前バーに体ごと寄りかかるようにして白目のまま、10mのレールの上を徐々に加速をつけながら滑落していく。


「い、一撃……そしてオーバーキル……」


 桜田さんがその陰惨たる光景に、つなぐ言葉も失っているけど、


「!!」


 シバ=ンシを乗せた直方体の装置は、あっさりと終点まで達すると、そこに内包されていた憐れな赤執事を座席ごと、前方に向けて放り出したわけで。観衆のどよめきと悲鳴が響き渡る。


「し、シバ=ンシ戦闘不能っ!!」


 顔面より辛子の海へダイブした俳人は、そう宣告され、果てた。


「は、ははっ……なかなかやるじゃないですか、紅いメイドさん」


 タメイドがその場を取り繕うかのように、テンプレチックな言葉を発するが、


「次の次がお前だ」


 僕はこいつに対しては際限なく上へ立てる(気がする)。追い詰めてやるぞっ!!


「くっ……くくっ、奴、シバ=ンシは元老院の中では最弱……権限なくて雑務だけが多い副議長なんて役割を押し付けられている時点で、それはお察しのこととは思われますが……」


 僕の恫喝に対しても耐性ついてきたのかな? タメイドは、つらつらとそんな負け惜しみのようなことを述べていくけど。


「いい機会だっ!! この私がこの対局を制し、新たなシバ=ンシの名を譲り受けることとするっ!! 『ウチョ=ツママハ』という名とも、今日でお別れだっ!!」


 お前がそれだったんかーい、と、やっぱりおミソ扱いされているその元老ネームに、何だか少し同情の念すら沸いてくるわけで。いや、どうでもいい事か。


 とにもかくにも3対2と有利な状況で第2ピリオドへ……っ!! このまま押し切れればいいけど。


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