#127:激辛な(あるいは、アスラ三面、顔が変われば)
「出し手はどうするか? まず対局前に、『属性カード』を対局者各々が『手持ち』として選択してもらう。『グー』『チョキ』『パー』からひとり10枚ずつだ」
実況の桜田さんの説明は続くが、その選択が出来る訳か。でも「ひとり10枚」ということは、「グー」「チョキ」「パー」をどう持つか? それがまず重要になるのでは。
「『属性』にはもうひとつ意味合いがあって……それを今から実演する」
桜田さんがそう言い、先ほどの痩せ男が拘束されている装置の方へ向き直った瞬間、アクリル足場の上流の方に、いつの間にか等身大の人形のようなものが現れていた。いつの間に……!!
その人形は黒服たちの手により抱え上げられると、足場に敷かれたレールの上に固定された。痩せ男の搭乗する装置の背後に位置するかたちだ。
その人形に取り付けられた腕は6本で、何かを支えるかのように上方に掲げられた2本、その右の方の手には何か棒状のものが握られている。そして中央、肘を軽く曲げ、手の平を大きく開いた2本、残る2本は胸の前で合掌、というか忍者のように印を結んでいる。
顔は3つ。三面六臂。極めて阿修羅っぽい、でも何か違和感を抱かせる何とも言えないフォルム。
まあ、どうせろくなことにはならないだろう事は変わりはしないだろうわけで。
「『グー』で勝った場合っ!! 相手に与えられるのは、この打擲っ!!」
桜田さんが右手を握って空に向けて突き上げた瞬間、その6本の腕を持った像はいちばん上の右手を後ろに振りかぶると、風を切る音と共に、その手に握られた棒を、勢い良く、痩男の臀部へと振り下ろした。
「があっ!!」
痩男の顔が、痛みを堪えているのだろうが、怒ったような微妙な顔つきに変わる。座席がドーナツ型に抉れていたのは、尻に打撃を与えるためだったとは……っ!! いや、ほぼほぼ予想は出来ていたことではあるけど。
「『グー』は怒り……」
桜田さんは重々しくそう告げるが、いやどういうこと。
「……!!」
そして中腰状態で後ろからきつい衝撃を受けた痩男は、思わず背筋を反り返らせるが、その瞬間、その体の乗った直方体の装置は固定されたレールの上を前方へ向けて滑り始めた。
「衝撃に耐え切れず、このように体を反らして尻が座席から離れるとっ!! それを感知して『スクエニック・ハーフナーパイプ』は前へと進むっ!! それを止めるには?開始時の姿勢、すなわち座席に速やかに腰掛ける必要があるっ!!」
痩男はおそらく意図はしていなかっただろうが、衝撃が去ったと思われた瞬間、力無くすとんとまた座席に尻を着ける格好となった。それに呼応するかのように、装置の移動も止まる。今ので足場の上を1mほど進んだだろうか。
「装置は秒速33.33333333……センチメートルっ!! 足場の全長は10mイコール1000センチっ!! という事はっ!! 座席から『30秒』尻が離れた時点でっ!! 中央に位置する『マスタレード・スワンプ』へと突っ込むことになるっ!! 純度100%の……辛子風呂へと」
ふっ、と切なげな目をする桜田さんだが、いや待って。対局場の真ん中に設置されたアクリルのプール、てっきり黄色の塗装が施されていると思ったら、透明の容器にマスタードがみっちり満たされてたのね……大丈夫かな、ダイブしたら死ぬ可能性否めなくね?
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