#128:根絶な(あるいは、Killer C7)
「痩男よっ、残る二撃を耐え切りレール上に踏みとどまったのならっ!! 虚偽DEPの件は不問とすることとしよう」
遂に正式に「痩男」と命名された痩男に向け、桜田さんはそう言い放つ。痩男は、はっ、とその方へ顔を向けるが、一瞬後、何か覚悟を決めたかのように、正面へ向き直った。
えー、受け止める気なの? 危険な気がしてしょうがないけど。そんなにその虚偽DEPうんぬんの制裁が恐ろしいのだろうか……その背後に不気味な笑みを浮かべた阿修羅像くんがキュラキュラと音を立てながら近づいてくる。
「では続けるっ!! 『パー』で勝ったら、相手にはもちろん……!!」
阿修羅像くんの真ん中の左手が振りかぶられるっ……!! 恐ろしいまでの的確な動きで、その目一杯まで広げられた掌が、痩男の臀部を襲う。
「はーひっ!!」
痩男は何故か笑ったかのような表情を見せた。いや実際は相当痛いのだろうけど。阿修羅像くんの材質が何であるかはここから見るだけではうかがい知れないが、おそらくは木、あるいは硬質な樹脂、最悪は金属と思われる。
「『パー』は笑い……」
桜田さんの先ほどからのそのキメは一体何なのかわからないままだが、
「ぐっ……!! ぐっ……!!」
笑顔のように歪む顔を引き締め、歯を食いしばりながらも着座する痩男。おおー、あれほどの衝撃を食らったにも関わらず、おそらくは2mくらいで装置を止めた!!
<残り:69760ミリ>
思い出したかのように、バックスタンドのディスプレイに表示されたのは、痩男の残りライフとでも言うべき数値だった。まだ半分以上残している!! これは耐え切れるんじゃないか? 僕を含め、観衆は痩男がんばれのムードだ。いけー、元老院なんかに負けるなー!!
「なかなか踏ん張るな、痩男よ!! 次で最後! これを耐えたらお前の勝ちだっ!!」
桜田さんの言葉に、憔悴を隠しきれないながらも、目に力が宿ったかに見える痩男。よおし、これを凌いで、僕らにもいい勢いをくださいっ!!
「ラストー、『チョキ』で勝ったら……?」
阿修羅像くんのいちばん下の印を結んだ手がぐぐぐっと下方へと引き絞られる。と同時にその体全体も縮こまるようにして下へと。
……待てよ。あの指の形まさか……いややばいやばいっ!! ギブしてぇぇぇぇ痩男ぉぉぉぉぉっ!!
「!!」
僕の心の叫びも届かなかった。阿修羅像くん渾身の指弾が、中腰無防備の痩男の肛門へと打ち込まれる。一瞬、周りの時間が止まったかのような静寂。
「……『チョキ』は冷徹」
桜田さんがつぶやく中を、痩男は全感情が抜け落ちたかの真顔で、前方へと、黄色い地獄へと滑走を続ける。そして終点まで達した瞬間、直方体の枠はそこで止まり、その衝撃で、痩男とそれを拘束している座席部だけが前へと飛び出した。
「あおおおおおおおおおおおおおっ!!」
あわれ痩男はマスタードの沼へと頭から突っ込まされることとなった。悲痛な叫び声が響き渡る。
「……」
そして尊い犠牲によって、ようく分かった。「チョキ」にだけは、絶対に負けてはいけないっ……!! ダメ絶対!!
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