#101:蠕動な(あるいは、激しさの極みでパツンパツン)
「……いや、ちょっとは……出るん……ですが……何……でしょうねこれ……」
声帯が震えるたび、鋭い痛みが喉を駆け抜ける。あの時の、あれが、ああして、こうなったのだろうか……風邪ってあれで伝染るとか、そんなことよく言われるよね……
「ジョリさん、速攻で喉に効きそうなやつ買ってきてくれ」
アオナギはそんな僕の様子を見やり、少し厳しい顔つきでそう言う。自己管理が駄目な僕に怒ってらっしゃいますよね……昨日のバックレと共に、本当に申し訳ない。そそくさと買い出しに行ってくれるジョリーさんにも感謝です。
「……実はよぉ、悪いニュースを掴んじまった。そっちの方がやっかいだ」
しかめた顔でそう言うと、アオナギは取り出したスマホに目を落とす。
「予選ではまだまだ抑え気味ではあったがよぉ……元老院が、いよいよ俺らを潰しにかかってくる」
元老院……名前だけは最初からちらほら出ていたものの、予選の時にはその存在はついぞ確認出来なかった。本当にいるの? そんな上位組織みたいなのが。
「げ、げげ元老院……」
丸男が体を小刻みに震わせながら言うが、その謎の組織が何故に僕らを狙うのかはよく分からない。
「少年が鮮烈なデビューを飾った初戦あたりは、奴らもこのスターの誕生ムードを歓迎していた感はある」
いやいや、そんな大したもんじゃあないですけど。でも確かに僕が得た評価ポイントの内、元老院5名のものが大幅を占めていたということは、グラフ化されたのを見た記憶がある。
「……だが、次第に奴らは少年を怖れるようになっていったと推測するぜ。ランダムバトル然り、準々決勝・準決の対戦相手然り、少年に不利な対局を裏で仕組めるだけ仕組んでいったんだろう。しかしそれを物ともせず、超新星ムロトミサキは6組予選を勝ち進んでいった……」
そういった不条理さは確かにあったけど、それがこのダメ業界の常識だと思っていた。
「……極め付きは決勝の豆巻だ。前にも言ったが、少年とは真逆のタイプで相性的には最悪の相手……ま、そこは俺が華麗なる捌きで事なきを得たが」
はいはい、確かに決勝はすごかったですよ。
「いよいよ……潰しに来る……とおっしゃられ……ましたが……僕は今まで通り……やる……までです。例えその元老院……ですか? が妨害のようなことを……してきても」
途切れ途切れの掠れる声だが、何とかそう言い切る僕。僕は今、背負うものがあるのだから……!!
「いい返事だ。さては何かあったな?」
アオナギがにやりとしてくるが、曖昧な表情でそれを交わす僕。やはりこの人は鋭いな!!
「少年のやる気は好材料だ。だがよぉ、元老院の妨害に屈しないと言ってくれた手前悪いんだが……コトはそんな生易しくはねえ」
え? そういうことじゃないの?
「直で来る。つまり元老院メンバーが直接、選手として出張ってくるってわけだ。今日のトーナメント表と出場者名簿を見てビビったぜ。決勝出場チームは俺ら含めて『11チーム』。その内の俺らと当たる可能性のある『6チーム』の面子のほとんどが!! 元老院の奴らで埋められていた。奴らの面子にかけて、少年を優勝はさせないっつー構えだ。いやなりふり構わずよくやるぜって感じだが、こっからの戦いは相当厳しくなるぜ」
何と。元老院とやらと対局することになろうとは。でももう僕にはそんなこと関係ない。
「今まで通り……やるまでです」
そういうことだ。アオナギはそんな僕の表情をちらと見て、くっくと笑う。
「持ってる奴は違うねえ、ま、相手は関係ないよな。今は少年のその気合いに乗っかるとするぜ。その、喉が荒れるほどの激しいプレイを経てパツンパツンの気合いによお」
否定したいが、真っ向から否定出来るわけでもなく。僕はこの折角の気合いがプスプスと不完全燃焼を始めつつあるのを感じ、曖昧な表情を浮かべることしか出来ないわけで。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます