殺人狂は誰だ。
誠二吾郎(まこじごろう)
第1話殺人狂は誰だ。
気が付いたら僕は砂浜に横立っていた。今までベットで寝ていたはずなのに……。
照らされる夏の太陽が喉の渇きをいっそう感じさせる。
水分を口に入れたい、喉の渇きで唾すら出ない、軽い脱水症状だろうか。クラっとした。
僕は深呼吸し、心を落ち着かせた。どうしてこうなった。これは夢なのか、夢オチで終わるのならばなおいいのだが。僕はほっぺを簡単につむった。
「痛い」
この世界は現実だそうだ。なぜこんな状況に陥っている。見知らぬ土地で僕は何をしている。
周囲を見渡すまで落ち着いた僕は、木の日陰がある場所を見つけた。本能ながらその陰に向かうことにした。
「ようやく、日陰に着いた。はあはあ、水分を確保しないと……」
木の日陰についた僕はすぐさま影に横たわった。磯の匂いが鼻につく。この状況が休暇で来たバカンスならばなお良かったことか。あごに砂をつけながら、ため息を吐く。
「え?
幻聴だろうか、脱水症状が極限状態まで来てしまったのだろうか。こんな所でいるはずもない
_______
「……、あさ……、朝倉く……朝倉君、起きて、起きてよ」
「ん?うーん。三条あゆみちゃん?もしかして夢?」
背丈まである黒髪の彼女が僕の身体を揺する。フカフカなベットに寝ていたようだ。いつの間に移動されたのだろうか、意識が飛んでいたから分からない。ただあの危機的状況から助かったという事だけは理解できた。
「僕は現実に戻ってこれたのか?ここはどこなんだ」
天井には木のプロペラが舞い、その風が心地よい。ただ目の前にいる
「それがわかりゃ苦労しねぇーよ。俺たちは同じ砂浜に流れ着いて、この場所に着いたんだからな」
赤いキャップを被り、サングラスつけている筋肉質な男は壁を背もたれにしながら、腕組をしながら言った。
「……あんた誰なんだよ。一体この状況はどうなってるんだ」
赤いキャップを被った男はサングラスを除けると、尖った狐目で鋭く僕を見た。
「これは失礼。俺の名は
「五人目?他にもこの島に流れ着いた奴もいるのか?」
「フン、礼儀がなってないんじゃないか、お前。誰かもしれないやつに情報を提示するとでも?」
三宅の鋭い目つきが俺を睨みつける。僕はゴクリと唾を飲む。
「……、朝倉……、
三宅は鼻で笑いながら、コクリとうなずいた。
「それはここにいる管理人に聞くんだな。お前が起きたら詳しい説明があるらしい。俺はそれ以上のことは知らないしな」
「は?なんだよ……」
僕の言葉を無視してこの部屋から出ていった。
「あの人は朝倉君をここまで背負ってくれたんだよ。ちょっと言葉が足りないだけの人だよ」
僕は照れながら顔を景色が見える所に背けた。
『ああ、五人目が起きたようですので、皆様、一階の客間に来てください』
突如、部屋に流れるアナウンス、さっきの男の声ではなく、老人のような声だった。
「なんだ?一体?」
「ここの管理人だよ。水や食料を分けてくれた人だよ。詳細は全員集まってからと言ってたから……」
僕は、脱水症状から回復したばかりなのか、少し頭がクラっともしたが、立ち上がった。
「行くしかねえ。今どこでどういう状況なのか説明してもらわないと」
「もう、朝倉君ったら、仕方ないわね。ほら私の肩を使ってもいいよ」
三条は顔を真っ赤にしながら、上目遣いで僕を見ながら言った。そんな幼馴染を持ったの僕は幸せなのかもしれない。心強さすら感じたひと時だった。
一階の客間に着いたら、他のメンバーも集まっていた。客間には十人以上が座れる長机、ナイトの鎧が置いてあり、天井には立派なシャンデリアが付いてあった。窓から見える海はまるで別荘にでも来たかのような雰囲気だった。
さっき会った三宅は腕組をしながら壁に背もたれを掛けている。他のメンバーは長机にいくつかある椅子に座っている。
長机の先には教壇があり、そこに先ほどの声の主である管理人と思われるスーツを着た老人が立っていた。
「それでは全員集まったみたいですね。詳細を話す前に自己紹介でも行いましょうか、私はここの管理人をしている。
老人はゴホンと咳ばらいをし、会話を終わらすとナイフを持った、前髪が鼻まで伸びた、 第一印象は近寄りがたい男を指さした。
「……、
ボソリと真顔で感情のない声で自分の名前だけ言い、口を閉じた。三宅は腕組をしながら、「胡散臭い奴だぜ。まったく」と嫌味を聞こえるように言った。山田内には聞こえてないようだった。
次に三宅、三条が簡単に自己紹介したのち、僕の番になった。老人が僕を指さす。僕はコクリとうなずく。
「あ、僕は朝倉です。なぜか皆さんと同じように砂浜に流れ着いていました。なぜここに流れ着いたのかわかりません……。よろしくお願いします」
僕が自己紹介し終えたら、老人が咳ばらいをした。
「それでは簡単な自己紹介が終わったことですので、今回のゲーム。この中に二人の殺人狂がいらっしゃいます。簡単に言えば鬼ごっこです。制限時間は夕方。鬼は私ともう一人、あなた方の中にいらっしゃいます。それではゲームスタートです」
突如、砂夫芹は手首に仕込んでいたナイフを取り出し、三宅に向かって行った。三宅は近くにあった椅子を砂夫芹に投げ込み、身を守る。
「ふ、ふざけんじゃねーぞ。なんでいきなり俺が殺されかけないといけないんだ」
「ふふふ、あなたが一番殺されがっているじゃないですか、未練たらたらですよ。私には分かるんです」
砂夫芹はスーツの裏に隠し持っていたナイフを取り出し、二刀流の構えを見せる。三宅は拳を握り、ファイティングポーズを見せる。
「この俺を舐めんじゃねーよ。これでもボクサー目指してたんだ。老人になんて負けやしないんだよ」
室内で殺し合いの攻防がひしめき合う。僕はゴクリと喉を鳴らした。逃げにゃきゃ、この場から逃げなきゃ殺されちゃう。だけど僕の足が動かない。
唇を噛みしめながら、動かない太ももを叩く。しかし、恐怖心が強いのか動かない。僕はこのまま砂夫芹という老人に殺されるのだろうか。
そんな時だった。
「早くこの場から逃げましょう。早く」
_______
三条に着いていくことにした。何せ、この島の港でボートを見たと言っていた。
屋敷を出て、森林を抜けると、海の波の音が聞こえてきた。こんな状況でなければ二人で楽しいひと時を過ごせたかもしれない。
いまだに足が震える。立ってるだけでやっとだ。逃げられるチャンスがあるのならば逃げたい。
全身から汗が滴り落ちる。足は蚊に何か所か噛まれた。目の前にいる三条のチラリと見えるうなじを見つめながら、息を荒げる。
「はあ、はあ、波の音が聞こえてきたぞ。もうすぐなのか?三条」
背後からの殺意はまだ感じることが出来ないが、もう一人の殺人狂、ナイフを持ち合わせた山田内亮が追ってきていると思うと、なおさら体力を消耗してしまう。
「もうすぐよ。あ、あったわ。早く乗りましょう」
港に一隻のボートがあった。目に映った時には安堵感しかなかった。これで助かる。これで三条と一緒に逃げられる。
早々に、僕らはボートに乗り、逃げ込んだ。次第に島が小さく見えてくる。チラリと見えた山田内亮の姿。一足遅かったな、僕らは逃げきることが出来たんだ。タイムリミットの夕方までジッとしてればこっちの勝ちだ。完全勝利は間違いない。僕はガッツポーズをして、天に指先を掲げた。
「ごめんね。朝倉君」
「え?」
ボソリと三条の声が聞こえた。
「いいいいいいてえええええええええええええええ」
僕はボートに倒れこんだ。三条は悲しそうな目で僕を見つめる。
「え、なんで、なんで、なんで。殺人狂は居ないはずなのに……、もしやまさか」
「そうまさかなの。私がもう一人の殺人狂なのよ。山田内さんは今頃もう……、先に向かっているわ」
次第に無言になっていく僕をよそ見で見て、三条は話を進める。
「あなたは私に未練がましいのよ。薄っすらどころががっつり気づいていたわよ。あなたの好意なんて。ただあなたには先がある。未来があるの、だったら先に進みなさい!……ふふ、良い顔ね、それでこそ朝倉君よ」
血の気が引けてくる。全体の血が抜けていくのが分かる。次第に意識がぼやけていく。このまま逝くのか。くそ、これが僕の最後だなんて。ただ最後に見た顔が三条で良かった。
薄っすらと微笑みこむ三条の姿。僕の耳元に近づくと、ボソリとつぶやいた。
「ずっとあなたが好きでした」
_______
「いってぇええええなああ」
僕はふと目が覚める。ベットの上、上半身だけ立ち上がっていた。
殺されたのにも関わらず、なぜだか爽快な気分だったのを覚えている。
生きている事に不思議がる。なぜ生きている。僕は三条に腸を切られたはずじゃ……。
そ、それになんで三条は生きていたんだ?三年前死んだはずじゃ……。
目覚めた瞬間に矛盾が頭の中でぶつかる。現実?これは夢だったのだろうか。頬っぺたを思いっきりつねる。
「いててててててて」
今まで以上に痛い。今までのが夢だった事を自覚する。スマホを取り出し、『夢、殺される』と僕は検索する。
「再生?新たな自分に生まれ変わる…………」
スマホを見つめながら一滴の涙を落した。僕は再び、目をつぶりスマホと一緒に布団の中に潜った。
殺人狂は誰だ。 誠二吾郎(まこじごろう) @shimashimao
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