メダリオン~白と黒の交響曲~

たんぽぽ

プロローグ『ゲームではない異世界』

 この世界はゲームなどではない。ビルが聳え立ち、電車や車が地を這うような現実世界とは見てくれは違えど、本質は何も変わってはいなかった。


 ―― ここでオレは生きているんだ。


 今日はオレ達プレイヤーがこの世界へと転送されてから、ちょうど四年が経過した日だった。


 その間、オレたちプレイヤーはこの世界で文字通り


 本当ならゲームとして楽しむはずだったのに、どうしてこんな事になったのか?


 全てが始まったあの日、何が起こったというのだろうか。


 剣と魔法が織り成すゲームの世界、そこでオレは何を手にしてきた?


 ―― そんなこと考えても仕方がないか。今は戦わなきゃいけないんだ。


 小高い丘の上、夏の始まりを告げる爽やかな風は、これから大きな戦いへと赴くオレの雑念を払うかのように心地よく吹き付けていた。


 遠くに見える中世の街並みを模したかのような風情のある街には、たくさんのプレイヤーが今日を生きるために一日を戦う準備が為されている。


 もう少し時間が経てば、皆が銘銘の目的を持ってダンジョンへと潜っていくのだ。


「ここに居ましたか……」


 一人の少女が銀、というよりは新雪のような柔らかな純白の髪を風になびかせてやって来た。柔らかな笑顔は人を惹きつけ、その髪や衣装も相まってかかなり幻想的な雰囲気が溢れている。


 初めて出会った時から、彼女は白を基調としたローブに身を包み、幼い頃から行動を共にしてきたという雪のように白く、小さな子どもの龍を肩に乗せていた。


 その子龍もかなり少女を信頼していて、甘えるような声とともに頬ずりをしている。


「ごめん、すぐに行くよ」


 オレは少女に笑顔をを見せてから、以前からお気に入りにしているこの丘を後にした。


 ―― 帰るんだ、元の世界に……。


 ―― その為にオレは、いやオレたちは戦ってきたんだ。


 ―― どんな絶望にも諦めず、腐らずに立ち向かえたんだ。


 この世界で出会った多くの絆と共に、今日もオレは凶刃と魔法が飛び交う戦場へと歩を進めるのだ。


 そんな今へと繋がるあの日、全てが始まった元凶のゲームを買ったあの日をオレは想起していた。

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