第六章「煉獄篇」
第15話『激突!アルベルト対グォーザス』
……風がアルベルトのシルクのような金髪を揺らす。曇り空は太陽を隠し、海原は波を描く。
統合任務部隊を統べる上級大将にして王太子アルベルトは、戦艦アイスウァルトを総旗艦とさだめ、戦場のさなかにあった。
クラウスとこのはは船室に控えている。
パルパティア王国軍近衛師団および陸海軍残存部隊は少ない。近衛師団は本土への火焔転移砲で多くの部隊を失っており、陸軍は実働部隊司令部がごっそりと消えている。イエーナ島で防御魔法に特化した軍艦──イージス艦を量産しているところだ。既に数隻が完成し、布陣している。
侍従武官が報告を取り次ぐ。
「──敵殲滅型重戦艦に動きあり、後続艦が転移術にて出現!」
アルベルトが立ち上がる。
「竜母から騎兵連隊を発艦させろ。同時に、イージス艦を敵の射線上に展開し防御陣形で布陣しろ──いいか、ここが決戦の場だ!」
「「了解!」」
十数隻もの魔界軍殲滅型重戦艦は紅蓮の魔方陣を展開し、その中心の火球に火焔転移砲のエネルギーを蓄積している──
竜母から近衛師団騎兵第一連隊が爆弾を抱え飛び立ち、敵艦隊に向かう……やがて敵艦隊の上空にさしかかる。魔界軍は空からの攻撃に弱い。
「投下!」
爆弾を分離し、即座に編隊がUターンした。
風を切りながら爆弾が落ち──爆発!
これで、火焔転移砲を撃てる敵艦を減らしたことになる。残るは六隻か。それでもあきらめずに火焔転移砲が発射態勢に入る──
──閃光が走った!
* *
……アルベルトは伏せていたが、起き上がる。
「状況報告!」
「火焔転移砲が発射されました……イージス艦が全滅です!」
「まさか……そんな……」
と、侍従武官がアルベルトのもとに駆けてくる。
「アルベルト殿下、あれを!」
侍従武官が海原を指し示す。
アルベルトが見やると──
幾多もの、数えきれないほど多数の魔界軍殲滅型重戦艦が紅蓮の魔方陣と共に現れ、集結しつつあった……数は一〇……二〇……三〇……五〇にも及ぶ!
「勝ったとでも思っていたか?」
「──!?」
突如として現れたのは、青き肌に鎧を纏い角を生やした大男──魔界皇帝グォーザスだった──!
アルベルトは彼を睨みつける。
「貴様……よくも国王陛下を、父上を手にかけたな!!」
「火焔転移砲を最初に用いたのはパルパティア王室だろうが。この罪は代々の王が背負うものだ──いや、お前が末代か」
グォーザスはうまい冗談を言ったつもりで、せせら笑った。
「貴様ぁ!」
アルベルトはサーベルを抜き、斬りかかる! ──が、グォーザスはアルベルトの腹を蹴り、うずくまるアルベルトを見下ろした。圧倒的な力の差だ。側近らも同様にやられる。
「……さて、桜の巫女はどこかな?」
「やめろ……やめろ!」
甲板に伏したアルベルトが手を伸ばした──その時!
「──やめて、私ならここにいる!」
当の本人が、桜このはが現れた!
「私のことはどうしたっていい。だから戦争はやめて!」
誰よりも熱い決死の覚悟だった。もう人が死ぬのは見たくない、誰よりも慈愛に満ち、誰よりも強い彼女の思いだった。
彼女は語る──
「守るべきものを守る。私が転生前の日本で創作クラスタとして描いてた世界では当たり前のことだった……確かに戦うのは必要かも知れない。だけど、さっきの火焔転移砲の攻撃で国王や軍人の皆が大勢死んでしまった。いやというほど戦いのむごさを見せられた、もうたくさんなの。──私の力が必要なら協力する! グォーザスさんが失ったリジルさんやトリーナさんも桜の巫女である私が取り戻してみせるから!」
彼女なりの結論。自分でたどり着いた正義だった。
望外の魅力的な提案にグォーザスはほくそ笑む。
「ならば、協力してみせろ──」
皇帝グォーザスは何やら呪文を詠唱し、このはの足元に真紅のリングを造成する……リングは分裂、増殖し、彼女の足、腕、胴体を囲むように回りだす。このはの瞳が光を失う……
「彼女に何をした!?」
アルベルトが立ち上がるが、足がもつれ、倒れる。まだ癒えていない。
次の瞬間だった──
剣の一撃がグォーザスに
鎧に弾かれたものの、思わずグォーザスは後ずさる。
真紅のリングも消え、このはの瞳が正気に戻る。
「!!?」
……見れば、侍従長クラウスが剣を構え、厳しいまなざしで立っていた。普段の柔らかい物腰からは想像できないほどに。
「……コノハ様は間違っている! 貴女ひとりで何ができるんだ!?」
その言葉に彼女が目を見開く──
「私も、王太子アルベルト殿下も、貴女をお守りするために今まで戦ってきたんだ! 王太子殿下は火焔転移砲の贖罪も何もかも全て背負う覚悟をお示しになられた! だから三人で約束しましたよね? 全員で背負う、と!」
アルベルトとこのはが、クラウスが吐き出した言葉の熱さに驚く。
「だから……おひとりで勝手なことを言わないでください……」
クラウスが涙した。
アルベルトも彼らに歩み寄る。
「よく言ってくれた、このは。クラウス。」
思いの丈をぶちまけたふたりの肩に手を添えると、アルベルトはグォーザスに向き直る。
……グォーザスは沈黙していた。
全員で背負う、その言葉に今は亡きリジルを思い出していた。あの日の彼女は、立ち上がるまで自分を支えてくれた──
おかしさにグォーザスは笑いだす。
「美しい絆だ。……ならば、皆まとめて消え去るがいい」
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