第四章「魔界篇」
第9話『聖地ガイア解放作戦・魔界艦隊を叩け!』
魔界軍の艦隊と地上部隊に制圧されている聖地ガイアを解放すべく、戦艦アイスウァルト率いる竜母艦隊が海原を進撃する。ガイアは目と鼻の先だ。解放作戦は王太子アルベルトの命によりすでに発令されている。
敵偵察騎発見の知らせを受けたアルベルト、クラウス、このはが甲板にてローラントから説明を受けていた。
「先ほど偵察騎二騎が出現。すぐに魔方陣で行方をくらましました」
「すぐに陣形を組み直しイージス艦の結界を張れ。砲戦用意」
「かしこまりました──イージスの盾始動、砲戦用意!」
アルベルトが指示し、ローラントが敬礼、号令を飛ばす。
「砲戦用意!」
戦艦アイスウァルトや護衛艦の艦体側面からカノン砲が突き出す。
各艦を中心としていくつもの魔方陣が回り、戦闘態勢に入った艦隊の陣形を、シャボン玉のような青色の膜が包み込む。これぞ防御魔法による
結界が張られる間際、自ら出撃すべく、近衛師団第一騎兵連隊連隊長である王太子アルベルトが装備を整える。
アルベルトがこのはと対峙し、抱きしめる! 頬を赤らめながらもこのはは拒まなかった。
直前にアルベルトが人目をはばかるそぶりを見せていたため、クラウスは目をそむけていた。相思相愛である彼らを見て、これまで侍従長としてわずかに年下のアルベルトを見守ってきただけに嬉しさもあるが……藍色の髪が風にゆれる。青色の瞳は寂しそうだった……
このはの頭を優しく撫で、転移魔法でアルベルトは竜母に移った。
……敵にも愛の悲劇があるとも知らずに……
* *
漆黒の艦容に紅蓮のマーキングを施した魔界艦隊は海をかき分け、パルパティア王国軍の襲来に備えていた。
聖地ガイア本島にはゴーレム部隊が並び、鉄壁の守備を誇る。
今回の聖地ガイア攻防戦では魔界皇帝グォーザスが自ら出陣する。
皇帝の侍従武官に任じられたのはベガルタの副官である女軍団長トリーナだ。地上部隊を預かる軍団長でもある。魔界軍の組織図は皇帝、丞相、軍務尚書、将軍、軍団長、部隊長、下戦士へと下りていく。
女で軍団長に登り詰めた者は今までにいない。言うまでもなくグォーザスの采配だ。理由は彼女の容姿にある。短く切り揃えられた凛々しい白銀の髪に、若さのみなぎるプロポーション……たわわに実った乳房のふくらみに肉付きの良い尻……筋肉質のしなやかな肢体を谷間や太ももの露出した鎧で包み込む。魔界軍に総じていえることだが、女戦士は女らしさを見せつける習俗がある。
いかにも女戦士と言うべき風貌のトリーナだが、ギャップを描く笑顔と朗らかな性格は皇帝をも
殲滅型重戦艦の甲板に並び立つふたりの距離はなんとなく近い。
グォーザスはトリーナを寵愛していたのだ。トリーナもまんざらでない様子であった。
……皇帝、侍従武官と共に甲板に立つ将軍ベガルタは戦況に当惑していた。
聖地ガイアを制圧してから時間が経ったが、いっこうに王国軍が攻めて来ない。
太陽は天頂にまばゆく輝いていた。
「…………ん?」
太陽を見上げた──その時だった。
青色の光が見え、黒点に変わる──それは何人もの下戦士がこの世で見た最後の光景であった──もはや手遅れだった!
ベガルタが我に返り、叫んだ──
「──敵襲!!」
王太子アルベルトが自ら戦闘騎を率いての急降下だ! 戦闘騎は爆撃騎を護衛しつつ海に浮かぶ魔界軍艦隊に突っ込む! 太陽を背負い、すなわち背の太陽光で目視の発見を遅らせるためその角度は異常にきつく、もはや落下に等しい。
魔界艦隊を護衛していた敵飛竜が防ごうとするが、アルベルトはじめ戦闘騎が格闘戦に持ち込み爆撃騎を死守する。──今、アルベルトの操る飛竜が敵騎を喰いちぎった!
戦闘騎が脇にそれ、後続の爆撃騎に進路をゆずり、爆撃騎は爆弾を分離する──爆発! 油脂に着火し、灼熱の爆炎が軍官、下戦士らを炙る。
とっさに皇帝は防御魔法で自らの座乗艦を守ったが、艦隊の他の軍艦は乗組員ごと火だるまとなっていた……
……惨劇はこれにとどまらない。
軍官が前方を指差し叫んだ。
「ベガルタ将軍!」
「どうした!?」
「あれを……!」
軍官が震える手で指し示す先には──
──青色の魔方陣が幾つもの輪を描き、海面に白波を立てる──閃光が走った!
金色のかがやきと共に現れたのは、パルパティア王国海軍連合艦隊司令長官ローラントが指揮する戦艦アイスウァルト、そしてイージス艦隊だ!
なぜか魔界艦隊に対し横側、左舷を向けている……なぜか、とベガルタが迷う──その時、
──爆炎! 戦艦アイスウァルトが左舷のカノン砲列を発砲した!
魔界艦隊旗艦の直近に砲弾が着弾、水柱を噴き上げる。
皇帝という身分にも関わらず、グォーザスが腰を抜かすトリーナを支えた。
姿勢を持ち直し、毅然とベガルタは命じる。
「くそっ……火焔転移砲発射用意!」
「「了解!」」
火焔系攻撃魔法を得意とする軍官が艦の舳先に火球をつくり、あまりの熱量で周囲の空間がゆらゆらと歪む。
その間に転移術を得意とする軍官が火球の前方に魔方陣を造成する。
「発射」
「火焔転移砲、発射!」
爆炎が天地と海原を焦がした──!
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