殺戮少女の召喚士

閑話休題

1話 召喚士

「18545、エヴィデンスはどうなった!見つかったか!?」

「いいや35248、未だ消息不明。てがかりのひとつもない。」

「なんとしても見つけなければならない。奴と、アルバトリオンの末裔と接触する前に!」

「エヴィデンスとアルバトリオンの末裔、出逢えばこの世界が辿る運命はイゴの終末か・・・。」

「10001!も、申し訳ございません。発見できるまでしばしお待ちを!」

「総員、全力を尽くせ。その身を焦がすほどにな。見つからなければ我々の未来は絶たれる。我らが王に忠誠を示せ!」


━━━━━━━━━━━━━━━━━


召喚士。

脳内のイメージ、そして身体の霊力によって可視化された自身の魂の一部。その召喚された魔物は「アニマ」と総称された。そしてそのアニマを召喚する者。それが召喚士である。


アニマには多くの種類が存在し、最も一般的なものが亜人である。姿形は様々であるが、おおまかに人の形をしているものを亜人としている。召喚には召喚士の深層意識のイメージが核となるため、自身に最も近い姿、人型になるのは必然であるというものである。

アニマにはもちろん亜人だけでなく、獣や竜、機械など多岐にわたる。


アニマは人々の生活を豊かにした。


そして同時に戦争の道具としても扱われた。


アニマが人類に与えた光と影は良くも悪くも、人々の革命の礎となった。人類はアニマと共に生き、発展し、死んでいく。


切っても切り離せない人類とアニマの関係。運命共同体、一心同体。こんな言葉が二つの間を象徴するのに相応しいだろう。


・・・と昔、自分の父親が語っていたことをふと思い出した。実際に聞いたのはかなり前になるのだろうが、その記憶は鮮明であった。おそらくその頃から召喚士を目指し始めたのだと思う。当時の純粋無垢な気持ちが今までよくも変わらずこれたと、自分に感心する。


教室のドアを開き、電子黒板に表示されている座席表を確認する。座席順は名前順というわけでもなく、一見無作為に並べられたものだと思った。生徒数は一つの教室に約30人といったところか。


指定された窓側の席へ座り、辺りを見渡す。まだ始業の時刻より20分前ということもありまだ着席している生徒数は多くはない。外に目をやるとマルクの花が咲いているのがわかった。桃色に咲くその花の花びらが風に乗り窓から教室へと吹き込んでくる。

すると目の前にいた先客が突然振り向き手を差し伸べてくる。


「よろしく、俺は宝条。君は?」

「出雲、出雲圭。」

「よろしく圭。あ、いきなり初対面で下の名前ってのはいささか積極的過ぎたか?」

「いや、大丈夫。気にしてないよ。」

「そりゃよかった。俺の事も陽介って呼んでよな。」

「OK、陽介。これからよろしく。」


目の前の席に座る、屈強な体をしたこの男は宝条陽介という名前らしい。少し話しただけでもかなり陽気な性格で明るそうな雰囲気である。


「ところで、圭。出雲って名字だったよな?ここらへんで住んでる出雲っていえばもしかして、例のアレか?」

「まぁ、そうだな。俺とお前の〈例のアレ〉の認識が同じものなら。」

「そりゃ王都の四名家。昔から代々、有力な天才召喚士の家系だろ?芥川、漆原、恵山、そして出雲。圭はその出雲家の末裔ってわけだ。・・・ひょっとして天才?」

「・・・。」

「おいおい、やめてくれよ?いくら俺に召喚の技量がなくてもはぶいたり、いじめんなよ?」

「安心しろよ。そんなことない。」

「はは、安心した。」


ああ、安心しろ。


そんなことない。絶対に、ないんだ。


━━━━━━━━━━━━━━━


時刻は30分をまわり、始業のチャイムが学校に鳴り響く。教室内には生徒全員が着席したようだ。

静まる教室に鳴る轟音。どうやらドアが開く音のようだ。


「今から入学式だ。用意しろ。列になって実技堂へと移動だ。」


生徒達は続々と廊下に出て一列に、座席順と同じように並び始める。


「なんか随分、恐ろしそうな教師だっな。まさか俺らのクラスの担任だったりしねーだろうなぁ?」

「いや、俺らのクラスの列の先頭に堂々と立ってるし、あれはもう担任確定で間違いないだろうな。」

「おいおい冗談でも言っていい事と悪いことがあんだぜ圭。俺の想像ではもっと優しそうで美人な女性の担任を期待していたんだが?それがなんだあのザマは。国家一級戦闘召喚士みたいなガタイしやがって。」


たいがい、ガタイならお前もさして大差ない気もするが確かに担任と思われる見た目三十代のその男もまた屈強な体をしていた。しかしその屈強さはただ単純に体を鍛えて筋肉をつけたと言うだけでなく、何かわからないがほかの要素を含めた強さというものを感じた。


自分たちのクラス含め計10クラスは実技堂と呼ばれる巨大なホールへと移動した。途中長い階段や長い渡り廊下を通りすぎ改めてこの学園の広大さを感じた。


王都国立召喚士育成学園。

その名の通り、召喚士育成を要とした国直々に作られた学園である。広大な敷地には生徒達の教室含む総合教育棟をはじめ、多くの巨大な建造物が犇めきあっている。

この学園を卒業する者の大半は召喚をメインとした職業につく。

その中でも最も志願者が多いのが国家戦闘召喚士。いわば国に認められた者のみがなれる戦闘に特化した召喚士。しかしなるにはかなりの召喚技量と判断能力、学習能力が必要になり、一年で全国で数十人しか合格者がいないこともあったという難関職でもある。

しかしその選ばれし数十人の約半数がこの学園からの卒業生でその高い合格実績、そして恵まれた環境から国全土から入学希望者が続出する、そんな学園である。


そして、第44期生入学式が今から始まるというわけだ。


俺と陽介を含めた新入生は学園の生徒全員を収容できるほどの大きさを誇る実技堂へと盛大な在校生からの拍手の中、入場し指定された席へと腰を下ろす。


暫くすると一人の男が実技堂正面の舞台に上がりマイクをとった。


「はじめまして、新入生諸君。私はこの王都国立召喚士育成学園の学園長を務める才賀響である。」


すると隣の席の陽介が小声で喋りかけてくる。

「流石の貫禄さだな。」

「それはそうだろ。王都が運営する学園の長であり、元国家戦闘召喚士の部隊の指揮官だぞ。まあかなり前の話だけどな。」

「そりゃ初耳だ。」

すると学園長が突然こちらの方を見てきた。少し目が合った気がしなくもない。

気のせいか・・・?


「よく知っているではないか。」


!!?今の話聞かれてたのか!?

広い実技堂。新入生である俺らが実技堂正面の舞台に一番近い席に座っているのは確かだが、それでもあんな小さな小言をこの距離で聞き取るのは異常ともいえる。盗聴器でも仕掛けられてるのか?


「安心したまえ。盗聴器なんてものは仕掛けてない。」


おいおい全部筒抜けじゃねーか・・・

新入生一同はどよめきだしていた。しかしその様子を見ている在校生は皆、笑いをこらえるようし、教師達は頭を抱えている。

なにか様子がおかしい。

教師達や在校生はこの状況に慣れている?つまり、一度もしくはそれ以上この状況を経験したことがある?

この状況、要するに入学式。去年も全く同じことが起こっていたということか?


こんなことができるタネ。そんなものこの世界にはひとつしかない。


アニマ━━━━━━━━━━。


「正解だ。」


学園長は突然満面の笑みを見せながら拍手をする。それに釣られて周りの新入生達も拍手をしだす。在校生や教師達も驚きの顔で、いかにも「やるなぁ」といった感心の表情で拍手をしている。しかし多くの新入生はこの状況に全く理解出来ずにいるだろう。


すると突然、自分の目の前に人影が現れる。突如として出てきたため流石に「わっ」と呆気ない声を上げてしまった。それは周りも同じようである。

その人影の正体はわからないが、人間出ないということだけはすぐに感じ取ることが出来た。


「紹介しよう。それが私のアニマだ。」


目の前に佇む亜人型のアニマ。全体的に黒い装甲をしており、目元には半透明の赤色のバイザーを装備している。しかし遠目で見ていたためこれ以上は確認できなかった。

しばらくすると、塵のようにまた一瞬にして眼前から姿を消す。

そして数秒後、そのアニマは学園長の居る舞台へと現れた。


「私のアニマの能力は〈人の考えを読み取る能力〉、〈消える能力〉の2つがある。君たち新入生の中にはこのような、その本人のみだけが扱うことの出来るオリジナル・アニマを習得できるいわば天才という者もいるだろうな。」


天才。

電脳召喚といわれる外部デバイスと呼ばれる機械を用いずに自身の体のみだけで召喚を可能とする者のことたちの総称である。

さらに天才はオリジナル・アニマと呼ばれる固有なアニマを扱うことの出来る。天才は生まれながらにして決まっている。人生の中でどれだけ訓練、努力をしてもその結果は変えることはできない。

天才以外のいわは凡才は電脳召喚で召喚を可能とする。しかしそれによって召喚されるアニマははっきり言ってみんなが召喚できるものなのでそのアニマの戦闘力は違えど無個性なのである。


つまり人々は皆、電脳召喚に頼らない自身の能力のみでオリジナルのアニマを召喚する天才に憧れを抱いているのである。天才はいわば召喚士の花形。そして天才の多くは国家戦闘召喚士に選ばれる。


そして簡単に学園の説明をされ学園長の話は終了となった。


「これで入学式を終了とする。」


副学園長の合図のもと入学式が幕を閉じた。

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