今日も朝が来た

810929(羊頭狗肉)と申します。皆様

第1話

「遅いな」「電話はあったけどな」深夜の続きという風な朝に男たちが集い軒下で体を揺すったりしながら白い息を吐く。「相変わらず寒いな」早く夏が来ねえもんかな」そんなやりとりをディーゼルエンジンのけたたましい音がかき消すと硬質な2トンの輸送車がただでさえ暗闇の中に黒い車体を販売店に横付けしてビニールにくるまった紙束の塊を放り投げてゆく。梱包を解いて一枚目を見ると『レジャームード暗転航空機事故!空港で爆発炎上』という見出しが踊っていた。その日の朝刊の三面記事には大きなテロの惨劇の詳細を伝える文字列で埋まっている。皆小さく顔を背けたり、短く感嘆したりして黙々と作業を進める。

だが、彼等の関心はもっと他にある

大ニュースのために印刷が遅れて新聞の到着が遅くなり、結果新聞の配達が遅れることが差し当たって新聞配達に携わる者の目下の心配事である。

テレビを付けるとニュースキャスターが目を爛々と輝かせ、鬼の首を取ったように犠牲者の死を蔑ろにし、テロリストの非道に急に嗚咽に声を詰まらせてみせ、タイミングよくスタジオに寄せられた追悼のツイートなどが紹介され、種々のコマーシャルを見せられる。何食わぬ顔で凶行の信奉者に成り下がった。そうかと思うと新しく始まるドラマの番宣で盛り上がる。

テレビの前で三度の食事を摂る者達は雑多な情報の闇鍋を突かされた。主らしき中年の男が思い当たる。そう言えばまだ新聞来ておらんな。こんな時間まで配達遅れて何が朝刊や、もうじき昼になるやないか。おい、電話して来月安くせえて言うてやれ」ご自分でお掛けになったらという言葉を喉元で止めて女は合せ味噌の塊を箸でかき回し鍋に溶かし込んだ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

今日も朝が来た 810929(羊頭狗肉)と申します。皆様 @cloudwalker

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る