カルタ指数

エリー.ファー

カルタ指数

 一つ目、二つ目、という妖怪はいる。

 いや、二つ目は妖怪ではなく人間だが。

 圧倒的に個体数が低いのが三つ目という妖怪である。

 私がそうなのだが。

 人間の世界で生きていく妖怪にはいくつか種類がある。烏天狗あたりはかなり頭も切れるし、神通力もあるので、実はこっそり使っていたりする。気づかれないようにすれば、これほど出世できる妖術は他にない。

 さて。

 私は三つ目である。

 妖怪なわけである。

 そして。

 特に何か妖術が使える訳ではない。

 しかも、基本的に三つ目の三番目の目というのは普段閉じているものである。そのため、他の妖怪たちのように変身して人間のふりをするなどの苦労は一切しなくていい。はたから見れば人間そのものなのだから困る訳もない。

 三番目の目が開くとき、つまりは開眼するときというのは、私自身がその状況や周りにいる人間など、色々なものが積み重なって心が破裂寸前まで追い込まれた、という瞬間のことを指す。

 つまり。

 実際、私が勤める会社で私はそのような経験を幾度となく繰り返しているため、実は知らず知らずのうちにひっそりと開眼している。

 そして、これはかなり恥ずかしい。

 三つ目にとって開眼状態というのは全裸と同義である。

 もちろん、三つ目の先輩方には、三つ目状態が絵になっていたり、それがそのまま漫画になっていたりする場合もある。しかし、あれは別であるし、正直精神的にはかなり私と差があるのだと言わざるを得ない。あんな真似は死んでもできない。

 ただ。

 あれはかなり気持ちがいいのだ。

 分からないでもないと思う。その、いつも隠している部分を外に出し、見られてしまうという解放感は代えがたい快感を運んでくるのである。

 これは人間でもそれに近いことをしている者がいるので、理解できることだと思う。

 私はそんな心持で、家の近くにまでやって来ていた。

 一人暮らしである。

 コンビニで買って来た刺身とビールとお菓子がある。

 それだけであるが、それだけで幸せになれるということに、意味がある。

 ただ。

 何となく思う。

 もう、夜なのだ。

 時間にして、かなり遅く。

 人通りは私以外いない。

 ちょっと、開眼してみようかな。

 そう、思ったのだ。

 まずい、か。何せ、誰もいないとは言え、外である。家の中ならまだしも、外となると。

 そんなことを思い少し戸惑う。

 しかし、である。

 ふと想像する。

 外気に触れる三番目の目、その表面を撫でる風。

 最高すぎないか。

 開けるか。

 三番目の目。

 サードアイ、オープン。

 やるか。

 なんとなく、ネクタイを緩めると、口から唾液があふれて、垂れてしまった。

 なんということだろうか。

 興奮している。

 この年になり、久しく感じていなかった熱がふつふつと湧きあがって来るのである。これか、これなのか。これが欲しかったのか、私は。

 自分を見失いそうになる感覚と、理性との間、その理性を押し殺すまでの自分の行動にもはや快感すら覚えているのか。

 やるか。

 いや。

 やろう。

 やってしまおう。

 スーツの前のボタンを開ける。

 刺身とビールの入ったビニール袋はいつの間にか緩んだ手から地面へと落下していた。

 長く息を吐き。

 逆に、あたりを一切確認せずに力を籠めることで、興奮度合いを挙げる。

 そして。

 三番目の目を開いた。

 そして六秒ほどその状態を維持する。

「さて、と。」

 ビニール袋をもう一度手に取って家へと帰る。

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