今朝の気分はいかが?

黒恵

第1話

「おはようございます、あなた。昨晩は少しは寝られましたか?」

 時刻は午前7時15分。私はいつも同じ時間に妻の待つリビングへと向かう。目の下に取れないクマを抱えながら。

「おはよう、いいや、いつも通りだ。」

 私は大きくあくびをしてダイニングテーブル前に座った。テーブルの上にはたくさんの朝食が並んでいる。野菜に果物、スープにパン。そしてたくさんのサプリメント。全て睡眠に良いと言われて私が毎朝摂取しているものだ。

「はあ...全くいつになったら爽やかな睡眠と目覚めを体験することができるというのか。」

 仕事で忙しくなかなか家に帰れない日々が続いていた数年前から、私はなかなか眠りに着くことができなくなった。もちろんそのため朝スッキリと目覚めることができない。

 妻は、そんな夫である私をいつも献身的に支えてくれている。

「あなた、そのことなんですけどね。私の友人でその分野に詳しい人がいるの。今度会ってみたらどうかしら。」

 妻が私の前に有機栽培の紅茶が入ったカップを置きながら言った。あらゆる手段を試してもダメだった私は、半分投げやりな気持ちでその人物に会ってみることにした。


 その人物は、白衣を着ていたが、いかにも怪しげな男だった。博士と名乗っている割には髪の毛はチャラチャラしているし、ピアスも空いていた。偏見かもしれないが。男は私を見るなり、納得したように頷いた。

「ははあ、なるほど。大丈夫ですよ、私がきっとなんとかしてみせます。」

 そしてなんだかいろいろな器具を頭や体に着けてポチポチと計測し、いくつもの質問にカウンセリングで答えた。書類に何度もサインさせられるのが少し不思議だった。

 そうしてしばらくした後に、男はニッコリと微笑みながら、私に1本の小さな瓶を渡した。茶色くて中身はよく見えない。

「今夜これを飲んでくださいね。きっと素晴らしい最高の目覚めが待っていますよ。」

 こんなもので本当に睡眠不足が解消されて、スッキリと目覚めることができるのだろうか。その夜、私は半信半疑ながらも、藁にもすがる思いで小瓶の中身を一気に飲み干した。ほんのりと甘い味がした。するとどうだろう、いつも全く眠気すら感じなかったのに急激にまぶたが重くなってきた。いける!今度こそ眠れるぞ!私は急いで布団にもぐり、爽やかな朝を想像しながら目を瞑った。


「急なことで大変でしたね、奥様。」

 同じ家のリビング。1週間前にはこのダイニングテーブルに溢れんばかりの朝食が並んでいた。今は熱々のトーストとコーヒーが良い香りを漂わせていた。窓からは朝日が入り、何とも心地良い。

「そうね、でもそれもあなたのおかげですからね。」

 茶色い小瓶を飲み干した男が目覚めることはなかった。それもそのはず、その中身は2度と目が覚めない毒薬だったのだから。怪しげな博士を名乗る男は、妻に依頼されて毒薬を渡すように依頼されていたのだ。妻いわく、夫に付き合わされるのはもううんざり。私まで毎日眠れない、だそうだ。

「それで、奥様。昨日はよく眠れましたか?今朝の気分はいかがです?」

 男の問いかけに、彼女は黙って微笑んだ。それはとても幸せそうに見えた。

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今朝の気分はいかが? 黒恵 @kuroe-storyterror

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