おめでとうございます見事あなたはこのセレスティアを救う勇者に選ばれました

あき @COS部/カレー☆らぼらとり

第n話 そして俺は目覚める




「ボブさん、起きてください。」




どこか遠くで誰かの声がしている、ような気がする。

俺は真っ暗の世界の中でひとり横になっているようだ。

どれくらいこうしていたのだろうか。その声に気がつくまで俺がなにをしていたのか、まったく思い出せない。





「ボブさーん。聞こえてますかー?」



その声は、次第に大きくなっている、ような気がする。しかし、どこまでも漆黒の闇がひろがっており、その声の持ち主は見つからない。

それはどこかで聞き覚えのある声、のような気がするのだが、どうしても思い出せない。



「ねえ、起きてってば。」


俺の身体が揺さぶられている、ような気がする。真っ暗な世界に光が差し込みはじめた。





そうか、俺は眠ってしまっていたのか!

どうりで世界が真っ暗なわけだ。

やれやれ。

そうと決まれば、さっさと目を開けようでは

「てい!」

「うぐっ!」

俺の思考をキャンセルするように、突然俺のみぞおちあたりに衝撃を感じた。


「いててててて」

次第に光が目に入ってくる。

どうやら、夢の世界からこちらに戻ってきたようだ。

ズキズキ痛む腹をさすりながら、俺は上体を起こした。

「はあ、やっと気がつきましたか? ここまで目覚めが悪いひとはボブさんくらいなもんですよ」

目の前には、赤ん坊が突っ立っていた。頭の上に輪っかもあるし、背中から羽根も生えている。その風貌から、我こそはまさしく天使であるという雰囲気が漂っていた。

俺とおんなじように、その赤ん坊も頭をさすっている。

さては、こいつ、俺に頭突きしたな。





とりあえずこの状況を一旦整理してみようと、これまでの記憶を辿ろうと試みたのだが、なにひとつ思い出せなかった。

なぜここにいるのかも、寝ている間のことも。


それと、なんだか嫌な夢を見ていた気がする。


ただ、それが悪夢であったのならば、思い出す必要もないし、むしろ忘れてしまったならば、目覚めてしまったほうがよかったのかもしれない。





「一応設定なんで、自己紹介しときますね? 」

まだ立ち上がれていない俺を無視して、赤ん坊は話を続ける。

「僕の名前はマル、この天上界のしたっぱ天使です。」

たしかにマヨネーズのパッケージに描かれてそうなフォルムをしている。うむ、間違いない。こいつは天使だ。


「えーっと、それから、なんだったっけ?」

マルと名乗る生物はおもむろにズボンのポケットから一枚の紙を取り出した。



「『おめでとうございます見事あなたはこのセレスティアを救う勇者に選ばれました』」

「なんと。」

マルは、なにか奇妙な文言を手元のカンペを見ながら棒読みで読み上げた。

にもかかわらず、不思議と俺はひとつも驚きもしなかった。とりあえず、適当な相槌を打ったのだが、まったく感情がこもっていない生返事となった。


マルはそのままカンペの朗読を続けた。

「これから、ボブさんには、この、えーっとなんていうんだっけな、あ、天上界セレスティアに、起こる、戦争を、止めて、いただきたいと、考えて、います。まあ、言ってしまうと、これから、戦争を、止めるための、仲間を、集める、冒険の、旅に、出ていただきたいと、えーっと、考えて、います。」

カンペに頼らずもっとスラスラ読んでいただきたいものだ。ていうか、自分の住んでる「セレスティア」くらいルビ振っとけよ。


「続きはウェブで。あるいは、いますぐ資料請求を。」

そういうと、マルは紙を元のポケットにしまった。最後のはよくわからなかったが、どうやらカンペは読み切ったようだ。

「ということで、まあ、ボブさんにとっては青天の霹靂かもしれませんが、そうことになりました。これは決定事項です。このセレスティアを取り仕切る神さまが気まぐれで決めたことなので、お手数おかけしますがなにとぞよろしくおねがいいたしますね。」

よろしくっていったって、なにをすればいいのか、俺にはよく理解できなかった。が、マルは続けた。

「戦争といっても、となりの家の犬がうるさいだとか、その犬も食わない夫婦喧嘩とかの仲裁に入っていただければ結構なんで、超簡単なお仕事です。」

とりあえず、そろそろ立ち上がることにしよう。場合によっては、こいつをシメる。










「てゆーか、俺、ボブじゃねーし。」

そう、俺の名前はボブではない、はずだ。これまでの記憶もないので、俺の本当の名前も思い出せないのだが、ボブではないということだけは何故だか理解できている。俺は決して、ボブではない、と言い切れる!

すると、マルはすかさずこたえた。






「いいえ、違います。これからボブになるんです。」







これから、ボブになる?

意味が、わからない。








「名前がか?」

「いえ、髪型が。」





















まるで、意味がわからない。

いや、正確にいえば、言葉の意味はわかる。

だがしかし、俺は現に短髪だし、好き好んでボブヘアになろうなんて思ってもいない。こいつはなにを言って

「ほーら、ボブになった。」

「うぎゃ、なんじゃこりゃ。」

みるみるうちに、俺のあらゆる頭皮から髪が伸びはじめ、刈り上げていたもみあげも耳も覆いつくすまでになった。

「あーら不思議! これはまさしく、ボブ! あなたボブっていうのね!」

マルは嬉しそうにいった。どこからかおもむろに取り出した手鏡を俺に見せてくる。

「夢で、あってくれ」

俺は無茶苦茶な展開に心底絶望した。




「そういえば、もう、神さまが旅のパーティー候補もご用意くださいましたよ。えーっと、ちょっと待ってくださいね。」

マルは、また、先ほどとは違うカンペを取り出して読み上げた。

「情報によりますと、ノーマルルートだとー、女双子武闘家のポニテとツインテ、それに白魔道士のパンチが仲間になりますね。」


名前と職業がアンバランス!


「さらに今なら、遊び人のウルフ、詩人のスキン、牧師のボウズパーティのロウルートや、ワカメ、カツオ、サザエパーティのカオスルートにも変更可能みたいですよ。」


なるほど。

海産物に関してはよくわからないが、この世界では、髪型と名前は直結するらしい。

あいつの名前がマルなのも理解はできたのだが、逆にアレを丸坊主としたこのせかいの神さまはなんていい加減な奴なんだ、ともおもったのだが、あいつに言い返すと正直めんどくさくなるので、いまはツッコまないでおこう。本当はマルじゃなくて”QP”あたりでよいのでは? と心の中だけで我慢しておくことにする。



「もういい。」

俺はマルの話を止めた。

「お願いだから、もうやめてくれ。俺を元の世界にかえしてくれ。」

すると、マルは穏やかに、ひとつため息をついて続けた。

「そうですね、たしかにこれは決定事項ではありますが、強制ではありません。でも、ボブさんが世界を救うか否か、YESかNOか二択の質問なんです。」

「じゃあ、答えはNOだ。」

俺はキッパリとこたえた。


「じゃあ、これからYESになるかもしれません。」


「また、意味のわからない返答をしおってからに。マジで夢であってくれー。」

俺はあわよくば元の世界に戻してもらえそうな、駄々をこねる作戦を決行することにした。マルを掴んで揺さぶる。激しく。

「困りましたねー。このままじゃ、揺さぶられっこ症候群になってしまいますー。赤ちゃんだけにー。」

俺は無視して揺さぶりつづける。激しく。





「それじゃあ、こうしましょう。」

そういって、マルは俺の手を振り払った。

「リセマラって知ってます?」

「違う世界では聞いたことのある単語だな。」

マルは妥協案を提案してきた。




「ここだけの話、もう一度眠ってみたら、そういうことができるらしいんですよ」

「なぜ、ここだけの話にせにゃならんのかわからんが、背に腹は代えられないからな。それにする。」

俺はリセマラというやつを、決行することにした。

「でも、勇者に選ばれる人って、そうそういないらしいんですけどね。本当にいいんです

「いい、寝る。」

マルの言葉を遮るように、俺は目覚める前と同じように横たわった。






「僕としては、SSRのボブさんに辞退されて、とても残念なんですが、本人の希望じゃ仕方ないですね。それじゃあ、リセット!」





だんだん意識が遠のいていく。





「次に目覚めた時には、リセットされているはずです。」





目の前が暗転していく。





「それでは、最高の目覚めを。」






これで俺は元の世界に、、、帰れる!










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