代用

君の目が、いつも見ていたのはあの黒髪か

羨ましいわと呟きながら、いつも見ていたのは

背中まで真っ直ぐに落ちて揺れる、あの黒髪か


僕は君の

顎の高さで切りそろえられた潔さが好きだったけれど


でも、君はいつも、あの長い黒髪を愛しげに見ていた


君がいつも守っていたのは、あの優しげな眼差しか

壊れてしまうものと嘯きながら、いつも守っていたのは

ふとしたことで潤んで揺れる、あの榛色の眼差しか


僕は君の

いつも真っ直ぐ前を向く強い眼差しが好きだったけれど


でも、君はいつも、あの弱く優しい眼差しを守っていた


君を喪った僕と

君を喪った彼女と


黒い服で雨に打たれながら

今、同じ悲しみの淵にいるのか


じゃあこれからは

僕があの黒髪を愛でよう

僕があの眼差しを守ろう


君を喪った僕と

君を喪った彼女と


お互いをお互いの身代わりにして


#詩人の本懐 「代用」

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