男子生徒Aの悪夢

もえすとろ

所詮、それは夢


俺は男子生徒A

いわゆるmobだ

俺は、名前持ちネームドと関わらずに平和に過ごしている……はずだった

しかし、今現在、俺は名前持ちの美少女二人から好意を寄せられている

言い換えよう、言い寄られている

本来名前持ちは名前持ち同士で好き合っているものなのに

なんで俺みたいな普通のmobに好意を寄せているのか、皆目見当もつかない



告白されて早数週間、何とか生きてはいるが……いつ死んでもおかしくない状況は続いている

仮にどちらかと付き合えば……親衛隊によって葬られる

どちらもお断りしても……なぜか諦めてくれない

いっその事どっちとも付き合うか……最低すぎるだろ、さすがに


よって、どっちつかずの状態で均衡を保っている




そんな俺は今、担任の教師から雑用を頼まれて校舎に残っている

普通なら嫌がるところだが、俺はこれをチャンスだと思ったね

そのおかげで、今日の下校は一人で気ままに帰れるんだから!

登校から授業中、放課後まで

一緒にいようとする二人から久しぶりの解放だ

今日は奇異の視線にさらされることも、嫉妬と敵意の視線にさらされることもない!


なんて素晴らしいんだ!!


それから黙々と作業をし雑用を終え、担任に報告し下駄箱へ


靴に履き替えいざ、帰宅!

誰にはばかることなく外を歩けるって……良いもんだな


俺は自由だーーーー!!


特に何もなく帰宅した

そう、mobの登下校にイベントなんて必要ないんだよ

不良から『おう兄ちゃん、随分とかわい子ちゃん連れてんじゃん?ちょっと面貸せや』とか、知らない男から『僕と決闘しろ!僕が勝ったら、その二人を解放しろ!』とか言われない

そう、それが普通のmobの世界なんだ


玄関を開ける

鍵はかかってない方が多い

時間にもよるけど母さんがいる事が多いからだ

今の時間だと夕飯の支度でもしてる頃だ


俺「ただいま~」





あれ?いつもなら返事があるんだけど……?


でも、キッチンの方からなんか音が聞こえるな

聞こえなかったのかな

キッチンへ向かう



夕日の差し込む薄暗い室内に

俺に言い寄る美少女の一人がいた

手には包丁を持っている

まぁ、ここはキッチンだ

包丁くらい持っててもおかしくは、ない


俺「えっと、(電気も点けずに)何してんの?」


美少女「ひゃっ!?」

ストン!

手から滑った包丁が床に突き刺さる

(危なっ)

その拍子に包丁に付いていた液体が俺の顔に飛ぶ

なんだ、手で拭うと……赤かった

真っ赤な血だった……

俺「血?」


美少女「あはは~、失敗失敗。ごめんね。手が滑っちゃった」


美少女は包丁を拾い流しへ入れる


美少女「えっと、これはね!事情があるの!」

微笑む美少女の顔にも血が跳ねていた

手も血で汚れていた

エプロンも所々赤いシミがついている


思わず一歩後退る


美少女「ど、どうしたの?顔色悪いよ?」

下がった分距離を詰める美少女


どうしてこの子は家にいる?

母さんはドコだ?

さっきの血はなんだ?

わからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからない






一気に恐怖があふれ出した





俺「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」


兎に角走って逃げなきゃ!

玄関へ一直線に向かい

靴も履かずに家の外へ飛び出す


そのまま、とにかく走る

走る走る走る走る走る

全力で走り、息が切れ、その場にへたり込む

俺「はぁ…はぁ…はぁ…」

なんだったんだ、あれは



これから、どうしよう……

とにかく隠れて、様子を見るしかない



美少女「みーつけた!どうしていきなり出て行っちゃうの?」

背後からかけられた声に振り向くと

血の付いた顔で笑っていた


俺「ひっ……」















ピピピ、ピピピ、ピピピ

俺「う~ん……」

パシ

俺「朝、か……」




凄い、悪夢だった……

なんてリアルな夢だったんだ……

今も手の震えが収まらない


なんとか着替えて、居間に向かう


母「どうしたの?顔色悪いわよ」


俺「悪夢見た」


母「そう、どんな夢だったの?」


俺「それは……」

悪夢の内容を母に話す


母「はっはっはっはっはっ!」


俺「な、なんで笑うんだよ!」


母「それって、いい夢じゃないの!美少女が自分ちで料理して待っててくれたんでしょ?」


俺「でも、血が」


母「魚でも捌いてたんじゃない?」


俺「さ、さかな……」


母「そこに私がいないってのも、あんたの願望でしょ?」


俺「俺の、願望?」


母「自分のために一人で料理して欲しいって」


俺「そんなこと思ってない」


母「深層心理ってやつよ。それにしても、フフ……」


俺「だから笑うなって!」


母「はいはい。それじゃ、あの子たちが迎えにくる前に朝ご飯食べちゃいなさい」


俺「…………」

俺の願望?あの怖い夢が?ありえないだろ

だって俺本当に死ぬかと思って……




いや、もうこれ以上考えるのはよそう

あれは夢だった

だから、何の意味もない

そう、夢で良かった

それでいいじゃないか

だってもし、目が覚めなければ俺は……




そうだ

最悪の悪夢から、覚めたんだ

ならこれは





最高の目覚めってことでいいじゃないか……

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男子生徒Aの悪夢 もえすとろ @moestro

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