戻らない指先
本田 そう
戻らない指先
いびつな形になっちゃたな‥‥‥
自分の右手の中指と薬指の先を見て、そうポツリと呟いた。
自分が高卒で、この工場のプレス課に配属されてから13年が過ぎた、あの夜勤の仕事終わりの時、自分はプレス機内の型を交換時に、右手を挟んだ。
あの時は、眠かったし、あと少しで仕事も終わりだったのか、何にせよ急いでいた気がする。
型がどうしても動かなく、手袋をはめた左手を型の上に、右手を型の下側に置き、型を揺らした。
その時に、型が急に動き出し、右手の手袋の指先が、型の下のローラーと型の間に引っかかり、右手の中指と薬指の先を巻き込み、挟まれた。
ーーーあっ、痛っ!ーーー
あの時は、またやったか!て感じしか持ってなかった。仕事で指先を少し切るぐらいは手袋をはめていても何時もあったから。
だから気楽に考えていた。
けど、今回は痛みが違った。
中指と薬指の先が、痛いと言うより、熱い。しかも、熱すぎる。痛みが来なかった。
兎に角熱かった。
で、油で黒く汚れた手袋を見ると、中指と薬指の所が妙に赤黒かったので、直ぐに手袋を取ると‥‥‥ 赤黒く染まった中指と薬指が目に入った。
多分、挟んだ時に無理に引っ張ったのが原因。で、初めて見て思いました。血て赤くはなく大量に出ると、ドス黒いんだと。
しかも指先から白いのが見えていた。
(この時、この白いのが自分の指先の骨とは気づかなかったんです。指先の脂肪かなんかかと思ってました)
で、なんか知らないんですが、あの時は妙に落ち着いていたのか、班長に「やっちゃいました」て、自ら連絡したんです。
で、すぐに救急車で夜間病院へ。
病院に行くと、直ぐに手術するのかなあ、と思っていたら、簡単な手当てと消毒で、
「今、外科の先生が居ないから明日また来てください」て言われた。
で、病院の待合室に行くと警察が来ていた。なんでも救急車を呼んだからだそうで、怪我の状態など聞かれた。
結局、一旦会社に帰り、また病院に行きましたよ。しかも自ら運転して。
あの時の痛みは、本当に熱い痛みから、ズキンズキンて痛みで、やったなのが右手だったから、まだ運転出来たけど。
んで、病院行って、驚いた事が一つありました。てか、そんな事すぐに決めれるわけないじゃん!
「あー、これは酷いですね〜。所で今から手術しますけど、直ぐに治しますか?それとも自然治療にしますか?」
「えっ?」
「自然治療は治るのに2、3ヶ月かかりますが、指はほんの少し短くなるだけです。直ぐに治す場合は、指先を3、4センチ切ります。あと、骨も1センチ程きりますが」
なんでも、潰した指先の傷口を綺麗に整えると傷口は早く治るとか(約一カ月くらい)。しかしその際に何センチかは切らないと行けなく、自然治療は傷口を少し整え、後は細胞がゆっくりと治していく、要するに、よく、転んで膝を擦りむいた傷の酷いバージョンみたいなの。
「それを今すぐに決めろと?」
「はい」
うおーい、そんな事直ぐに決めれませんよお〜。けど‥‥‥自分の包帯を巻かれた右手を見たら、
「自然治療にします」
て、言ってました。
で、手術したその日の夜。麻酔が切れた後は、あれはもう痛みとは言えないほどの痛みが右腕全体に走りましたよ。
あの日は痛みが凄すぎて、一晩中のたうちまわってました。痛み止めも四、五錠飲んだんですが効果なし。
それが二日続きました。あの時ほど死んだ方がマシだと思ったことはなかったです。
で、五日目ぐらいに、漸くぐっすりと眠れて、次の日は最高に目が覚めましたよ。
痛みになれたせいもあるかも。けど‥‥
「あー、やっちまったんだなあ〜」
包帯が巻かれた右手を見て改めて思いましたよ。
で、病院で治療の度に
「この手と一生付き合っていくのか‥‥」
思っちゃいましたよ。
まあ、側からパッと見た目は然程変わらないんですが、横から見ると、指の爪は下に向かって変形。指先も丸くはなく、斜めに何かで切った、そんな型になってしまいました。
あれから数年が経ちますが、雨の日には少しズキズキと痛みます。指先の末端神経がなくなってますのにね。
みなさんも不注意による怪我にはくれぐれも注意して下さい。無くなったものは元には戻りませんので。
戻らない指先 本田 そう @Hiro7233
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