第2話 君ねむる あはれ女の 魂の なげいだされし うつくしさかな

君ねむる あはれ女の 魂の なげいだされし うつくしさかな この前田夕暮の歌に自分の恋愛経験を重ね、深いシンパシーを感じる峰良也は文学青年だった。

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在りし日の光景は思い出のなか。もう二度と見る事の出来ない、幼なかったころの我が故郷ふるさと。母屋の前には庭があり入り口の左側には樹齢二百年は過ぎていそうな榎の大木と梅の古木があった。


 車が乗り入れられる表門を挟んだ向かい側に武家屋敷の様な外観で瓦屋根でおおわれた井戸があった。その傍らにはさくらんぼの木が毎年春には咲きほこったものだ。

 母も祖母も何時いつも泣きそうになりながら見ていたように思う。恋人を残して戦死した叔父が少年のころ植えたのだと母が教えてくれた。もうみんな死んでしまって誰もいない。


妹よ君は覚えているか。失われた光景と環境に育てられた。

私たちはともに暮らしていた。あの夏の日々。


君も想い出すだろう。

あの真夏の熱い夜_蚊帳のなかであった事を……。

固く目蓋を閉じ頬を赤らめていた君の下着を全て脱がし僕も脱いだ。後ろから抱きしめながら小さな突起に触れ下の……。濡れていた。初めて共鳴しほとばしり同時に達したのだ。

妹よ、はげしい はげしい 熱や あえぎの あひだから

おまへは わたくしに たのんだのだ

夜も昼も心が震え時制も錯綜し想い出が溢れそうになる。

ああ、妹よ、妹よ。

けふのうちに とほくへ いってしまふ わたくしの いもうとよ みぞれがふって おもては へんに あかるいのだ

(妹はどこへ行く予定とてなく私の見た美しく甘い幻想だった)

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【詩人 宮沢賢治 永訣の朝 】_峰良也の感情にこの詩が連関しているのは事実であるが、その限りに於いて、その感情は峰良也だけのものである事は明記して置く。

      ーー詩人の魂のためにあの世のあらん事を願うーー

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