第2話 ひとりぼっちの可憐
試験も課題もすっかり片付いたこの2月、ちょっと長い春休み、ゆっくり羽を伸ばすもよし、バイトに励むもよし、なのに私は今こうして学内のカフェテリアで特訓の最中なんです。
何の特訓か、って?
う――ん、なんて説明したらいいんだろう。
そうね、わかりやすく言うならば、一種の霊能力というか、そんな
あっ、それは私のではなくて、目の前で頑張ってる二人のね。とにかく、この二人はまるで何もわかってなくて危なっかしいったらないのよ。だからまずはできるところから少しずつってことで、私が指南役を引き受けたってわけ。
私の名前は
この二人、知らない人が見たらまるで
それにしても、よもぎちゃんっておもしろい
あっ、今の話に出てきたシロというのは、私に
シロが言うには
シロとの出会いはいつだったかな、まだ私が小学校に入る前、ずっとずっと小さい頃のことだったわ。我が家は母子家庭で、私はママ……あっ、母親が勤めに出ている間はずっと
伯父が言うには私は小さい頃からひとり遊びをすることが多かったんですって。私からするとお寺を頼ってきたいろんな人に声をかけてもらってた、って認識しかなかったんだけどね。そしてそんな私を心配した伯父はなるべく本堂に入らないようにっ、て私に言ったわ。しかたなく私は裏庭のお稲荷さんのところで遊ぶようになったんだけど、そこで出会ったのがシロだったのよ。
伯父にはシロのことは見えないみたいだけど、なんとなく雰囲気は感じるんですって。だから伯父は今でも私と顔を合わせるときにはまず深々とお辞儀をするのよ。あれはきっとシロに感謝の意を伝えてるんだと思うわ。
それからというもの、私とシロはいつもいっしょだったわ。伯父からもシロの依り代である
そして小学校に入学してもそれは変わらず。授業中、先生に注意されたときだけはランドセルにしまったけど、それ以外のときはいつも首から下げてたわ。
それは小学2年生のある日のこと、図工の時間に二人向かいあってお互いの似顔絵を描くことなったんだけど、事件が起きたのはそのときだったわ。
私はクラスメイトの
でも私にはすぐに解ったの。綾ちゃんには見えたのよ、シロの姿が。
ところが困ったのはその後、なぜか綾ちゃんがみんなに責められて。みんなは見えない、って。先生も見えないって言ってたのに、なんで綾ちゃんだけが、って。だから私はみんなに言ったのよ。
「そんなの、見える人だっているんだから。私だって見えることがあるんだから」
そして感情にまかせて余計なことを言ってしまったの。
「サブちゃんだって、いつもおばあちゃんといっしょじゃない! ユキちゃんにもニャンコがいるし!」
子どもだったから仕方ないことだったんだけど、あれは失敗だったわ。
サブちゃんっておばあちゃん子でね、そのおばあちゃん、前の年の夏にお亡くなりになってたのよ。ユキちゃんもね、生まれたときからいっしょだった猫ちゃんがユキちゃんが小学校に入るちょっと前に天寿をまっとうしてたの。
おかげで今度は私がターゲット。綾ちゃんがいじめの対象にならなかったのはよかったんだけど、代わりに私よ。
「
そんな風に
そしてよせばいいのに、私は叫んでしまったのよ。
「シロは……シロは、ワンちゃんじゃないもん。シロは狐だもん!」
そうしたら今度は、
「や――い、神子薗はキツネツキ――」
ですって。
それから私はクラスの中でもすっかり浮いた存在になってしまったことは言うまでもないことだわ。
そんな小学校生活だったけど、私のことを「みっこ」って呼んでなかよくしてくれる子もいたのは幸いだったわ。
でもね、私に近づいてくる子の中には興味本位で私を霊能力者だとか狐使いのウィザードなんてのと勘違いしてる子もいたの。結局、小学校も高学年になった頃には私に近づきたくないとか怖れてるような子たちは私のことなんて完全無視、一方で寄ってくるのは今でいう「中二病」みたいな自称能力者ばかり。あのころは今思い出してもほんと、疲れる毎日だったわ。
そして第二の大きな事件が起きたの。あれは小学5年の秋、運動会の予行演習のときだったわ。
私は体育の時間は
彼ね、私の木珠を手にして校庭に出てくると、それを手に高く掲げて大騒ぎよ。みんなは止めてくれたんだけど、彼はもう軽い興奮状態だったのね。
「や――い、ここまで取りに来いよ。それとも返してほしけりゃ土下座しろ!」
それはもう大騒ぎ。先生もそんな様子を聞きつけて駆けつけてきたわ。
そうしたら彼、引っ込みがつかなくなったんでしょうね、木珠をブンブン振り回し始めて、そして勢いをつけてそれを遠くに飛ばそうとしたのよ。
そうしたら彼、みんなの目の前で
このときは今まで以上に大騒ぎだったわ。職員室から他の先生方も駆けつけるし養護の先生も。もちろん救急車も呼んだわ。
みんなどころか先生も見てる前でのことだったし、これはもう、ちょっとした事件よ。あのとき彼は極度の興奮状態にあったから、ってことでそれ以上の原因究明はしなかったんだけど……当然のことながら学校中のみんなから私は犯人扱いされたわ。
でもあれはシロの力、怒ったシロが彼にお仕置きをしたわけだから、確かにみんなの言うことは当たらずとも遠からずだったけどね。
そしてその後は案の定、「
このときは母親と、それに伯父も付き添いで先生と面談をしたんだけど、伯父ったらよせばいいのに、
そしてそのときの面談で出た話が中学は小学校の児童が行かない遠方にしたらどうか、ってことだったみたい。でもこれには伯父が怒り心頭で、
「うちの
って猛抗議。伯父ったら私のことになるといつでも本気なもんだから、かなり先生に噛みついてたって、あとでマ……いえ、母親が言ってたわ。
そして伯父ったら、
「それならうちのは私立を受験させる!」
なんて言い放つ始末。って、ちょっと待ってよ、受験するのは私でしょ?
そうしたら「金の心配はいらん」ですって。いえ、お金もさることながら、それよりなにより私の学力が……。
でもそれもいいのかな、って。このまま地元の中学に進んでもあることないこと言われるだろうし、また3年間ひとりぼっちなんてのは願い下げにしたいし。それにこういう結果になったのもシロの思し召しみたいなものかも知れないし。
そして私は急遽受験勉強を始めて、なんとか近くの中高一貫の女子校に合格できたの。学費も学校指定の制服なんかも全部伯父が出してくれたわ。私の母親はえらく恐縮してたけど、伯父も自分が言い出したことだから心配するな、って。
こうして始まった私の女子校生活だったんだけど、伯父にとってひとつだけ気がかりなことがあったんです。それは私が合格した学校がミッションスクールだったこと。これは地元から一番近い学校がたまたまそうだったんだけど、お寺の子がミッション系なんて、シロもちょっといたずらが過ぎたわね。
そしてミッション系お嬢様学校での私の6年間はとても静かで落ち着いた毎日だったわ。でも小学校でのことがトラウマになってたから、私自身はあまり深い人間関係は築かないようにしてたの。だってこんな女の園みたいなところで問題なんか起こしたら、なんて考えただけで薄ら寒くなったもの。だから私の中高6年間ってあまり思い出らしい思い出ってないんです。
「さあ、もう一度。今度は今よりも少し距離を開けてみて。それじゃカウントダウン、いくわよ!」
今日は少し趣向を変えて屋外でのエクササイズです。と言ってもまだまだ初心者な二人だから、とりあえずここなら安全な伯父のお寺の境内を借りて。
とにかくこの子たちに効率よくできるだけ長い時間安定性を維持できるコツを伝授してあげないと。
でもあれだけ他人には自分の能力やシロのことをひた隠しにしてきた私が、こうして毎日のようにつき合ってあげてるなんて自分でも信じられないわ。これもきっとシロの誘導とか予言とかそういうことなのかも知れないわね。
そんな私たちに伯父ったら興味津々。少しは居間で休憩したらどうかとか、夕食を食べていけとか。でもそれって私よりも太田クンと話をしたいんだと思うわ。
それに伯父からはよもぎちゃんなんて見えるわけないから、私と太田クンが二人だけで何かやってるようにしか見えないでしょうし、だからこそ気になって気になって仕方がないんだわ。
そりゃそうよね、この歳になって初めて友人、それも男性を連れて来たんだもん。私も覚悟はしてるけど、とにかく今夜は伯父からの質問攻めは避けられそうにないわね。
それならば、そっち対策のエクササイズ……というか予行演習もしておかなけりゃかな。
ね、太田クン。
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