第53話:~閑話ヴァカスの結末

 奴隷まで身分が落ちてしまったヴァカスは、北の大地に戻された。


「おやおや、どうやって抜け出したんでしょうね?この砦から抜け出し脱走する阿呆が居たとは信じられませんねぇ」


 ヴァカスが抜け出せた要因は、案内役としてついた男性を気絶させ、抜け道を見つけたからだった。


 意識を狩られてしまった囚人が即座に管理者で有る領主に報告。


 どうなるか知って居るからこそ、戻されて来るまでは何もしなかった。


 気絶させられてしまった彼が処分される事もなく、罪を償う作業に戻されたのは幸いだろう。


「うぅ・・・(五月蠅い!何故言葉を発せられぬのだ?!)」


「ああ、言い忘れて居ましたが、その首に付けられた道具は魔道具で言葉を刈り取る仕組みですよ。そして再び逃げ出そうものなら、首が絞めつけられる仕組み・・・逃げれば命が無いと思って下さいね?」


「・・・(そ、そんな・・・)」


「そして一番、覚えておかなければならないのが、死ぬまで労働して貰う事が決定して居ます。食事は1日1食のみ。最低限の水分は差し上げますが、それ以上を望んでも逃走犯としての罪を償うには程遠いと覚悟しなさい」


 食事は1食で水分は最低限・・・それを聞かされ、ようやく北方での脱走犯の末路を思い出し真っ青な顔つきになるヴァカス。


「あぁ、それと今まではヴァカス元王子と呼ばれて居たでしょうが、ここでは名前は有りません。囚人番号で呼ばれるの事になるのですよ500番くん」


 本来なら2桁の番号が付けられる筈だったのだが、ヴァカスが逃げ出した故に番号が最大級の処罰を表す番号を付ける事になったのだ。


「っ・・・!(何故だ?!何故、王子たる私が罪人として番号で呼ばれねばならんのだ!)」


「アリスフィーヌを国外追放にした事で前科1犯、魔獣の森に置き去りとした行為で2、マデリーンでしたか魅了魔法を防げなかった事で3、諸々と追加された罪で犯罪歴としては10犯になって居るのですよ500番」


 何ともすさまじい罪を重ねて居たのだろうか、と言う顔で砦の周囲を掃除して居た者たちが見ながら戻って行く。


「ああ、ご苦労様。今晩の夕飯を支度して下さい。皆さんの分は何時も通りで、500番の食事は必要ありません」


「うっ?!(なっ?!)」


「食事は朝1食のみ・・・ですよ?今から食べられる訳が無いでしょう500番」


 まさか・・・まさかの処遇にヴァカスはペタリと座り込んでしまう。


「馬鹿な事をせずに砦から出なければ、3食休憩付き。領地運営を覚える事を放棄しなければ、立派な領主として生活できたでしょう。500番は悠々自適な生活を捨てる結果を招いたんですよ」


 アリスに恨みを抱かず罪を受け入れ、まじめに学びを開始して居れば奴隷に落ちる事は無かった。


 それを全て放棄したのはヴァカス自身なのだ。


「自業自得・・・あ、得な事は一切ないですがね。奴隷部屋へ連れて行きなさい」


 ヴァカスは警備を担当する囚人の手により、奴隷が暮らすエリアへと収監され、辛く厳しい冬の寒さを耐えるだけの生活となったのだった

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る