第38話:暴走の果て3

 衛兵は王妃に王子の部屋で起こった事を伝えると


「はぁ・・・常日頃から剣の鍛錬をして居ないにも関わらず、常に何事が起きても良いように。鍛錬して居たアイザック様やウィル様、マギー様、アメリア様に敵う訳が無いと、どうして気付かぬのでしょうね」


 と残念よりも呆れた口調となってしまう。


「王妃様・・・ヴァカス王子様の処遇は・・・」


「良いわ。わたくしが向かいましょう」


「お手を煩わせ申し訳ございません」


「それを言わねばならぬのはヴァカスです。出ないよう見張って居る貴方の所為せいでは有りませんよ」


 冷や汗がタラリ・・・と流れる。


 本来なら職務放棄で処罰される事案・・・それは王子の部屋から離れた事。


 何が有っても離れてはならなかったのに離れてしまったのだから、処分されても仕方無い事。


 言うべきだ・・・そう思うも口が重く言い出せない。


 意を決して


「王妃様、申し訳ございません。ヴァカス様より書状をしたためたいと言われ、便せんを取る為、職務を放棄してしまいました」


 謁見時に騎士が首を垂れる形、以上の姿・・・所謂いわゆる「土下座」状態で詫びる姿が痛々しい。


「・・・正直に申しましたわね。二度目は有りませんよ?」


「はっ・・・」


 正直者は報われる・・・それを地で行った形となる、そして王妃は王子の居室へと怒りを胸に向かったのだ。



 * * * *


「さて愚かなる王子よ、を守れるとでも?」


「なっ?!何故、ウィル王子がアリスフィーヌを愛称で呼ぶのだ?」


「それは・・・な」


「ウィル様がアリスフィーヌ様と婚姻からよ」


 婚姻では無く婚約なのだが、あえて婚姻と伝えた。


 その言葉を聞いた瞬間「ガーン」と効果音が聞こえそうな顔でウィルを見る残念お・・・こほん・・・ヴァカス。


「なっ・・・なっ・・・そんな馬鹿な事が有るか!人と獣人が結婚できる訳が無いっ!!」


 ウィルは


「体の構造は人と同じだが?」


 と頭の上に有る耳と尻尾以外は人と変わらないと強調する。


「それに過去にも人と獣人が婚姻し、子供を育てた事は有名ですわよ?」


 何もかも勉強不足。ヴァカスに勝ち目など初めからなかったのだ。


「ヴァカスの勉強嫌いは何時からなのかしらねぇ。王族として最低限の知識すら欠如して居るとは思わなかったわ」


「は、母上・・・」


 過去の文献に目を通して居れば確実に知識として得て居たで有ろう情報。


 それすらもマデリーンに魅了されたが故に「学ばなかった」のだ。


「レンシルの恩情も無駄となってしまいましたが、ヴァカスには北方に有る領地の開拓を生涯に渡って管理して貰います。良いですね?」


「そ、そんなっ!私は王にな・・・「れる訳ないでしょ。基本中の基本すら抜けた馬鹿王子」う・・・」


 母の一言で、どれほど学んで居なかったのかを思い知る事となったヴァカスは、王位継承権を剥奪され、王族からも除籍・・・男爵まで落ちて一番厳しい指導者が居る地へと身1つで向かう羽目となったのだった

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