第4話:学園までの道のり

 心穏やかな時間と言うのはアリスに取って数える程だけとなって行った。


 別邸とは言え、追いやられてしまった彼女をしいたげるのは義母と義妹だけで無くなって行ったのだ。


 新しく雇われたメイドたちにののしられ、罵倒ばとうを浴びせられ、言葉の暴力を受けて居た。


「マデリーン様たちの慈悲で別館に居られると言うのに、あの態度は無いわねぇ」


「そうねぇ。だけどご主人様からと言われない限り捨てられないのよねぇ」


 本来、有ってはならない陰口。だが、それを黙らせる人間は屋敷に居ない。


(お爺様の手続きは終わらないのかしら・・・)


 祖父はエヴァンスをセレンティア家から追い出す為の書類を作る為に、領地へ戻ったきり、連絡が無いのだ。


 心配になったアリスは風の妖精に願い出る。


【風の子よ、わたくしの祖父が居る領地まで様子を見に行ってくれませんか?】


・・・姫様のお爺様、どうやら姫様を養女にする手続きなさって居るみたいなの】


【まあ、そうなの?】


【えぇ。お爺様の傍に居る風の妖精が教えてくれたわ】


 そうだった。妖精同士の連絡は容易かったな、と思い出し見に行くと言う事を願い下げた。


【忘れて居たわ。あなたたちは念話で連絡できるのだったわね】


【姫様とて願えば念話は出来るようになるわ】


 ふふふ・・・。嬉しいわ、と微笑するアリスが学園に行く用意をし始める。


「お嬢様、今までは馬車で向かっておりましたが・・・」


「あら、あの方は徒歩で行けとでもおっしゃったのかしら」


「いえ。平民用の馬車を使え・・・と命令を・・・」


「まぁ・・・なんて馬鹿なのかしら」


 盛大な溜息を吐き出した理由は、平民が乗る馬車に令嬢がでは有るが、自分の父は、それすらものか、と。


如何いかがなさいますか?」


「マギー様は天界から直接、ご自分の翼で通っておられるし、アイザック様は遠いですから願い出るならウィル様でしょうか・・・。あぁ、でも、そうしますと婚約者のヴァカス様が嫉妬なさりそうですわね。一番、妥当なのはヴァカス様に願い出る事かしらね」


「ですが、あの方が許さない可能性が・・・」


「はぁ・・・困りましたわね。学校に遅れてしまいますから歩きましょう」


おおせのままに」


 父とも思えぬ所業を強いられたアリスは、令嬢らしからぬ徒歩での移動となった。



 * * * *


 アリスが徒歩で学園に向かって居る姿に気付いたのは、アイザック。


 彼は王都に屋敷を構えて居るものの、距離的に遠い為、早めに出立して居た。


「あれは・・・アリスフィーヌ嬢?どうして歩いて学園へ・・・」


 至極当然の疑問を浮かべたアイザックは御者に


「アリスフィーヌ嬢に近づいてくれ。事情が有るなら一緒に向かった方が安全だ」


 と伝えると「御意」の言葉で馬車はアリスが居る方向へと向かった。


「・・・アリスフィーヌ嬢、貴女様が何故、徒歩で学園に向かっておられる?」


「あら、アイザック様ごきげんよう」


 軽く制服のスカートを摘まみ膝を折ったアリス。


「徒歩では間に合いませんよ。乗って行かれませんか?」


「ですがヴァカス様から不貞を疑われてしまいそうですわ」


「理由を聞いても不貞を疑う程に馬鹿ではないでしょう。遅刻するよりは良いかと」


「まぁ」


 辛辣しんらつな言葉でヴァカスを馬鹿と言い切る当たりは、魔族ならではで有ろう。


 ヴァカスは脳みそが無い…と陰で言われて居るのだ。


 アリスが生まれた時に婚約者と決められて居た。


 ヴァカスを補佐する為の勉学は、それはそれは厳しかった。


 礼儀作法に始まり、歴史、ダンス、挨拶・・・様々な知識が幼いアリスの体に叩き込まれ今のアリスは作られて居る。


 アイザックの手助けによって危機的状況は回避された

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る