裏切られた侯爵令嬢

坂崎まゆ

第1話:プロローグ

 わたくしはセレンティア家の令嬢として生を受けたアリスフィーヌ・セレンティア。


 わたくしの母は13の時で短い生涯を終えてしまった。


 葬儀には父は来ず母方の祖父が全ての手続きをしてくれた。


「アリス、わしの養女とならぬか?」


 そう申し入れてくれた理由は、母と政略的な婚姻を結んで居た父が、誰とも判らぬ女性の元へと通い詰め、1つ下の娘を授かった、と言う噂から。


「嬉しい申し出では御座いますが、でも父親ですわ。彼の許諾なく娘としてお爺様の領地へ向かう事は不可能ですわ」


 とても有難い言葉では有るのだが、養子縁組をするにはで有る父の許諾を貰う必要が有るのだ。


 お爺様は苦々しい顔つきで母を埋葬する墓地へと連れて行ってくれた。



 * * * *


 母を埋葬し、お爺様の馬車で自宅へ戻ると執事のルーカスが誰かと言い争う声が聞こえて来た。


「ですから大旦那様の許可が無ければ中に入って頂く訳には・・・」


「何を言う!この屋敷の主は私だぞ!問答無用で入って良いでは無いか!!」


 声の主は、どうやら父親らしく、傍には胸元を強調させるように作られたドレスに身を包んだ女性と、1個しか違いが無さげな女の子を伴って居た。


(ああ、これが噂の愛人と娘・・・かしら)


 漠然と思ってしまった。


「ああ!アリス!!戻って来たのだな?喜びなさい。お前のだ!」


「「は?」」


 後妻を迎え入れるにも制約ルールが有るのを忘れたのだろうか?


「何を勝手な事をするのだ!アイリスの喪も明けきれぬ今、後妻を迎え入れるなど正気の沙汰では無いわ!」


「お、義父とう様ぁ?!」


「・・・お前に父と呼ばれる筋合いは無い。と言うか誰だ?」


「お義父とう様、ご紹介します。私のマリアとのマデリーンです」


「そなたの妻はアイリスで娘はアリスフィーヌおらぬ・・・が?」


「いえ、正真正銘、彼女たち私のです」


 驚いた事にエヴァンスは愛人と子供を家族と言い切ったのだ。


「馬鹿者ぉ!!お前はセレンティア家の恥だ!儂の権限で即刻、侯爵家から追い出してやろうぞ!」


 書類を作る為、祖父は領地へと戻って行き、アリスフィーヌは平然と母との想い出が残る屋敷へと戻って行くのだが


「アリス、お前は別宅で暮らすのだぞ」


「・・・例え命令されたとしても荷物を移動する時間が必要と思われますが?何も持たずに行け・・・と?」


「あぁ、そうだ!お前に屋敷の備品や服など持たせる訳が無かろう!」


 頭がバカになったのか?とも思ったのだが、元から父は母を愛しておらず、愛人宅に行ったまま帰って来なかったので合点が行った。


 彼女が淑女らしく成長できたのはひとえに、母付きの侍女が優秀だった為。


彼女は母が死亡してしまった、と言う事実を受け入れ難いのか、引きこもってしまって居る。


「少なくとも、わたくし自身で揃えた品くらい持ち出して宜しいでしょうか」


「・・・それくらい許そう」


 母がアリス(アリスフィーヌの愛称)に購入したドレス、アクセサリー、羽ペン、便せん・・・服の品をルーカスに頼み運んで貰う。


 彼女の不幸は始まったばかりだったのだ

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