自由になりたい
新吉
第1話
フリーズドライ
誰か俺にお湯をかけて
ほぐしてくれ
人の頭にはハンドルがある
操縦するのも小さなひとだ
小うるさい運転手
「やめとけって明日起きれなくなるぜ」
「周りが引いてるのわかるだろ?」
こんなに小さなハンドルに
苦しめられていたのか
縛られていたのか
こんなに小さいヤツに
任せておいて平気なんだろうか
いろんなチカラを使って
もっと自由になりたかった
自分のチカラにしたかった
もっと限界を超えたかった
疲れない体になりたかった
だけど制御できずに暴走してしまう
だいたいフリーズしてしまう
空気が乾燥して花粉も飛び上がっている
俺は水分を飛ばしてカラカラになっていく
自由になりたい
目覚めるパワーがほしい
技マシンなんてないけど
なかなか起きてくれない
小人を脅す
俺を動かすんじゃなかったのかよ
すぐに返事がくる
そんなことはいってない
頭を叩いて重たい体を起こす
いいや小人に脅されて
いわれなくても起きるんじゃねぇのかよ
すぐに返事ができない
頭を叩いて重たい体を起こす
◯◯◯◯◯◯
灰色の世界。どんよりとした雲が空にフタをしているだけ。
まぶたが重い。髪も重い。体だって重い。昨日はよく眠れなかった。なんだか変な夢を見た気がするけれど、もう覚えていない。
階段を滑るように落ちるように降りる。いつもと同じだ。ドタドタドタといつか抜けてしまうんじゃないかと思う。あれ変だなあ今日はいつもより静かだ。シャワーを浴びる。頭にかけるから目を閉じていて、かけ終わって目を開けたら俺はまだ布団の中だった。
夢か。少し笑いながら落ち込みながら、また同じようにくりかえす。夢の通りなら今シャワーを浴びていたはずだったのに。そう思いながら服を脱ぐ。まだ寒いなあ、身震いした瞬間目を閉じた。パッと目を開けると布団の中だった。
時々俺の頭は布団の中で朝の支度を繰り返してしまう。縮こまって、固まって動けない。嘘だ。布団の中でスマホをいじる。さあて、今日は何日?ややや?休みだ!
「今日は遊ぼう!」
わざと口に出す寂しい攻撃。頭に思い浮かぶ楽しいことがなんら楽しくなさそう。ふと大きな窓の外に露天風呂があることに気づいた。なんだこの部屋?俺の部屋はこんなに豪華じゃない。着ているのはいつものジーパンと黒いシャツ。訳がわからないな。いいか、風呂に入ろう。
かけ湯をして湯船につかる。いつかみた夢を思い出した。俺は俺の姿をした大きなロボに乗り込んで操縦している。結局怪人にかなわなくて縮めて固められてみそ汁の具にされてお湯をかけられて食べられた。あの時とは全然違う。あったかくて体が浮いて、ふわふわして手足が伸びる。声が出る、歌になる。きっと頭の中の小人もあったまっているだろう。最高だ。お湯で顔を洗って目を開けたら布団の中だった。がっかりだ。二度寝をしようとしていたらいつもの枕じゃないことに気づく。寝返りをうつ。窓の外には露天風呂があった。
旅先だ。美味しいごはんとお風呂がある。羽を伸ばしにきたんだ。変な夢見て二度寝して、シャワー浴びて決まった具のみそ汁をお湯で戻して、仕事して寝る。そんなサイクルを壊したくて来たんだ。こんなところで目覚めるなら最高だ。目覚めない夢を見続けるのも最高だ。
自由になりたい 新吉 @bottiti
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