終わりのない物語―少女の最後の目覚め。

星の狼

「終わりのない物語―最後の7日間。」


 今日は復活祭。人や魔物……皆が騒いで、喜んでいる。邪悪な女神が滅んだのだ。「豊穣の女神に選ばれた、勇者様ご一行が邪神を亡き者に……。」、「勇者様が、邪悪な女神を滅ぼして人や魔物を救った。」皆が語り合い、叫んで喜んでいる。


 

 今日は、祝いの日。



 空は赤く染まっている。街の明かりに照らされて、皆は踊ったり……歌ったり……皆、お酒を飲んで酔っ払っている。黒髪の少女が大人たちの横を通り過ぎていく。



 私は、街の広場にきた。走ってきたので、呼吸が乱れている。何度か深呼吸をして……キョロキョロと辺りを見渡した。


 私は母親を探していて……すぐに見つけた。私の母は、広場の隅にある長椅子に座って……ある本を読んでいた。


「お母さん、来たよ!」


『……時間通りね、偉いわ。

 ここまで来るのに、道に迷わなかった?』



「大丈夫……お母さんがくれた水晶。

 役に立ったよ。」


 私は、首からかけていたペンダントを見せた。私の魔力に反応して、淡く光っていて、とても綺麗。私を導いてくれている気がするし……母がくれたものなので、すごく気に入っている。


『そっか……こっちにおいで、

 

 賢いお嬢ちゃんには……

 あるお話を読んであげる。』



「……なんの本? 本の名前がないよ?」



 私の母が持っていた、古びた本。本のタイトルが書かれていない。私は、母に引っ付いて……母が開いていたページを覗き込んだ。母が、私に優しく教えてくれる。



『この本には……復活祭のお話が書かれているの。

 だけど、6日間だけしか書かれていない……。


 1日目、豊穣の女神は、子供たちの中から四人だけ選んだ……選ばれた、勇者様ご一行。女神に導かれて、世界を救う旅にでました。


 

 2日目、豊穣の女神は、勇者様ご一行に試練を与えます。勇者様は、御供の少年少女と共に歩み……見事、試練を突破しました。



 3日目、豊穣の女神は、勇者様ご一行に加護を与えます。勇者様には、光り輝く剣を……。御供の少年には、鏡の様に美しい盾を……。御供の少女には、闇を祓う水晶の杖を……。そして、四人目の少女には、時の粒が入った砂時計を……勇者様ご一行は、女神に導かれて歩み続けます。



 4日目、邪悪な女神は、勇者様ご一行に牙をむきました。真っ黒の闇が襲ってきたのです。真っ黒の闇は、いろんなものを見せて惑わします。大切な人たち、大切な故郷……もちろん、美味しい食事も目の前に……でも、全て幻です。


 御供の少女は、水晶の杖に魔力を込めます。杖に、少女の魔力が吸い込まれていきます。御供の少女は、杖に全てを奉げて、幻想の闇を祓いました。


 御供の少女は倒れて、動きません。水晶の杖は、少女の魔力だけでなく、少女の魂も吸収してしまったのです。勇者様ご一行は嘆き悲しみながらも、前へ進みます。



 5日目、邪悪な女神は黒い爪で、御供の少年を引き裂きました。鏡の様に美しい盾もちぎれて……使い物になりません。勇者様は、四人目の少女を逃がす為に、光輝く剣を振り続けました。自分の命が尽きるまで……。』



 怖い。この本の内容が思っていたよりも怖かった。私が、母から離れると……母は優しく、私に教えてくれた。


『大丈夫よ……最後は、勇者様ご一行が勝つの。

 だって、皆がそう言っているでしょう?


 今日は、復活祭。祝いの日……。

 邪悪な女神が滅びる……最後の日だから……。』



「……でも、勇者様も、御供の二人も殺されたよ?

 どうやって、邪悪な女神を殺したの?」



『……それは、続きに書いてあるわ。

 

 6日目、四人目の少女は全てを失いました。自分の命以外全てを……。豊穣の女神は、嘆き悲しむ少女に囁きます。時の砂時計を壊しなさい。そうすれば、貴方は大切なものを取り戻せると……。



 時の砂時計は、時間を戻してくれます。最後の少女は躊躇せずに、時の砂時計を壊しました。時が戻っていきます……6日目……5日目……4日目。



 3日目……2日目……そして、1日目。豊穣の女神は、子供たちの中から四人だけ選びました。また選んだのです。再び選ばれた、勇者様ご一行。女神に導かれて、世界を救う旅にでました。


 この本には、ここまでしか書かれていないわ……今はね。』



「?……それじゃあ、なにも変わらないよ?」



『そうね……でも、今はそうなっていないよ。

 どうしてかな?


 勇者様ご一行に……四人目の少女がいたよね。豊穣の女神が与えた時の砂時計は、最後の少女が望んだ様に、時を巻き戻した。


 だけど、その代わり……四人目の少女は、全て忘れてしまいました。何もかも、全部……自分がしていたことも……。』



「………………。

 その子……全部忘れたの?」



『そうよ……6日目のあとに、

 7日目があったことも忘れた。最後の日があったの……。



 最後の7日目。豊穣の女神に選ばれた、勇者様ご一行は、邪悪な女神に殺されてしまいました。四人目の少女は……時の砂時計が時を戻し、生き残りました。



 やがて……生き残った最後の少女だけが、邪悪な女神のもとに辿り着きました。全てを忘れて、仲間の杖から水晶を外して……水晶に導かれて、ここまでやってきたのです。』



 そう、ここに……今日が、7日目よ。



 そろそろ、思い出した? 私は、本当に貴方の母親? ここは本当に、貴方の故郷?……私もそろそろ疲れてきた。この物語の終わりが知りたいの。



 だから、思い出しなさい……よく聞きなさい、これだけは正しい。今日は、私の復活祭……祝いの日。さあ、私を殺しなさい。世界を救う為に……。




 私の母が持っていた古びた本に、タイトルが刻まれました。


 「終わりのない物語―少女の最後の目覚め。」



 私は、思い出した。これは、全て幻。この街も、人や魔物も……全部、偽物。


 私は、三人の顔を思い出した。皆、殺された……私の母に。私は泣きながら、仲間の水晶に自分の魔力を……魂を奉げました。私に微笑んでいる、母の幻を消す為に……。



 今日は復活祭……祝いの日。人や魔物……皆が騒いで、喜んでいる。邪悪な女神が滅んだ。「豊穣の女神に選ばれた、勇者様ご一行が、邪神を亡き者に……。」、「勇者様が、邪悪な女神を滅ぼして人や魔物を救った。」皆が語り合う。



 今日は、祝いの日です。

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