第56話 『独立宣言』 その7
『今、入った情報では、ここに向かって、ミサイルが飛んできてるらしいです。政府が打ちましたか? って、すぐに着弾しますが。』
副首相は、副官に何か尋ねた。
そこに、窓から少し閃光が煌めいたような感じがあり、ついで、どかああ~~~~~ん。と、大きな爆発音がした。
『あ~~~あ~~~~~。聞こえますか。迎撃成功したんですが、なんとまあ、核爆発したみたいです。みたところ、熱核爆発ではない。小型の古典的核弾頭ですな。紀伊水道の上空で爆発。被害不明。』
『はあああ。副首相殿。なんと、核弾頭だったようです。迎撃に一応、成功しましたが、残念ながら海上で核爆発したみたい。ここを狙ったのなら、あなたも狙われたわけです。施設や工場ごと、ふっとばす積りだったのかも。』
『むむむ。』
副首相は、小さく唸ったあと、副官の耳に、なにかささやいた。
副官は、『ちょっと失礼』と言って、席を離れた。
『今確認させています。しかし、政府が放ったものとは、思い難い。いくらなんでも、そんな、ばかげたことは、やらないですよ。』
『そうですよね。ぼくも、そうは思いますがねぇ。狙われたことは、確かなようですよ。』
『首相さんは、やりかねないのではないですか?』
保田さんが、いらついたように言い放った。
『いやいやあ、それはないですよ。現在は、首相自身だけが発射スイッチを押すわけではないし。』
『そうなんですか?』
『ふうん・・・まあ、この際、しかたがないか。ええ、そうなんです。首相は、過労で、確かに少し不安定なのです。かつて、南北アメリカ国が開発した、小型の戦術核弾頭を極秘に取得して、近距離ミサイルに搭載できるようにしたのは、確かなんですがね。いわゆる『W9』の、改造型です。核出力は、12キロトンほど。でもね、ぼくが了承しなければ、絶対に発射されないですよ。』
『そいつは、ガンバレル型というやつですか。』
『ええ、そうですよ。もっとも、ぼくは、専門家ではないですがね。』
と、副首相。
『はあ。迎撃に失敗とも言えるかなあ。まあ、不発のまま海に落ちてもやっかいだろうし。』
と、ぼくである。
『ガンバレル型とかいうのは、そもそも、非常に危ないものでしょう。なんにしても、だれにしても、まさか、ホントに使うなんて思わなかったです。事実なら、非常に不満です。』
保田さんは、かなり怒っていたが、まあ、当然だろうか。
しかし、ぼくたちも、『持っている以上』核弾頭での応戦は、まったくしないとは断言はできないのだが。
現在、世界は、すでに先の核戦争や、超自然災害により、みな混乱状態であり、自分たちが生き残るのに必死で、超大国どおしが、再び核戦争をするような環境ではないとされている。
人類が絶滅しなかったのが、不思議なくらいなのだから。
また、いわゆるICBMのような、大型の長距離核融合爆弾ミサイルは、再びの誤使用がないように、核戦争後に、それぞれで残り物は封印されたとは言われるが、誰も確認はしていないし、まあ、できない。
国連の様な機関は、機能していない。
実は、小型の核弾頭も、かなり昔に、多くは現場から廃棄されたが、無くなってはいなかった。
相当数が、横流しされたとの噂も、絶えなかったし。
まあ、横流しされたことは、事実な訳だ。
だから、ぼくたちみたいに、いまだに核弾頭を、隠し持ってる者や、国がいる、わけだから。
また、多くの原発は、停止後、事実上放棄されていて、きちんと管理されているとは言い切れない。
ぼくらが知らない核汚染が、爆弾以外でも、進行しているのかもしれない。
で、もし、一発使われたら、どうなるかは、分からない。
人類の本性が、先の核戦争前よりも良くなったとも、言えないだろう。
誰かが、再び、世界制覇を狙っていないとも言えない。
我が首相が、その一人と言う可能性は排除できない。
まったく、混沌とした状況であった。
**********
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます