第53話 『独立宣言』 その4


 中央政府の副首相がやってきた。


 もちろん、ぼくは面識がある。


 相手だって、首相は出て来ないわけだから、こちらの方も、『四国共和国』の暫定首相が、のこのこ出て行くわけにはゆかないだろう。


 暫定副首相は、つまり、ぼくである。


 各施設の管理者たちは、いろいろと面倒なので、表には出さないことにした。


 ただ、杖出氏が暫定首相だということは、すでに伝えてある。


 スポークスマンは、宝田氏である。


 のらりくらりとした人だし、なんと言われても、まったく動じない、いやあな性格であり、押しもきくし、そうした職務には、実際、向いているかもしれない。


 ぼくの意向としては、宝田氏の副首相が良いと思っていたのだが、なぜか、本人も、杖出氏も、副は、ぼくが、という。


 それは、意図はよくわかる。


 ぼくが寝返るのは、致命傷になるからである。


 ぼくの持っている実力が、実際にはどのくらいなのか、彼らには測りかねているわけだ。


 無理もない。


 そこで、ぼくは、燧灘にいた潜水艦に、小型のミサイルを一発、四国を超えて、その先の海上に打ち込むように指示した。


 打ち込んだら、居場所を変えるようにも指示した。


 副首相が到着後、ただちにである。


 もちろん、核弾頭を使うつもりはないが、場合に寄っては、ありうることは知らせておきたいから。


 もっとも、防衛隊の持っていた潜水艦の稼働状況は、不明である。


 推力が原子力ではないことを別にすれば、世界でも最高レヴェルの潜水艦である。


 いかんせん、燃料が足りていない可能性が高い。


 また、超大国の生き残りが持っていた、原子力潜水艦が、まだ生き残っている可能性は大きい。


 それでも、このアジアの片隅の内紛に、首を突っ込む余裕はないはずだ。


 国内の駐留軍は、いつのまにか、みな、いなくなっているし。


 下手に介入すると、もし制圧しても、ものすごい復興費用の手助けをしなければならなくなるかもしれないのだ。


 火山灰で、作物も出来ず、荒れ放題の国土を頂くのは、あまり得策でもない。


 噴火で破壊された、原発由来の汚染も報告されてはいるが、詳しいことは、分かってさえいない。


 まず、誰もやりたくはない。


 が、もしも、核弾頭が使われたら、事情が変わるかもしれない。


 また、この四国の『食料工場』の秘密が広まったら、これまた、わからない。


 この先の、重要な戦力になりうるかもしれない。


 ぼくとしては、全人類が、無意味な争いごとは捨て、世界的な共存社会が実現したらいいとは思うが、そこに関しては、悲観的だ。


 保田さんの組織は、より楽観的な立場らしいし、となりのボスが参加しているらしい、元公共機関の職員組合による秘密結社は、もっと現実的な考えらしい。


 宝田さんは、いまのところ、四国の一匹オオカミであろうと思われる。


 秘かに地下で活動する、四国の各族長たちを、たばねていると、ぼくは見ていた。


 逆に言えば、この人は、押さえておかなくてはならない。


 我がボスは、同じ公共機関でも、医療系の独立機関の流れらしい。


 内情は、まだよく、お互いに知らない。


 知らない方が良いことだってある。


 

 そこで、ほどなく、例の応接室に、副首相御一行様が、到着した。


 公用車は、四国の防衛軍(今は、こちらに寝返った形だが。)の車両を使ってもらった。


 それに合わせて、ぼくの指示通り、海中からミサイルが一発飛んだ。


 


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