第52話 『独立宣言』 その3

 日本合衆国中央政府側は、四国独立の動きを直前までうまく察知できていなかった。


 杖出元総理が、四国に逃れていると言う、噂が政府内にもあったのは事実だが、確証はなかったし、わざわざ捜索する理由も、必要性も、差し迫ってあるとは思えなかったのだ。


 また、そこに、力を入れるだけの余裕もなかった。


 四国からは、予定通りに、生産物が本州側に、もたらされていたこともあった。


 四国側の対応は、それだけ早かったのも事実だが。


 それでも、一定の防衛力は配置していたが、彼らは国民に攻撃するようにはなっていない。


 まして、重要な食料資源として、守られるべきものだった。


 それでも、『独立宣言』が出される前に、情報は来るべきだったし、その後、すみやかに政府側が鎮圧を指示したにもかかわらず、防衛隊は動かなかったのだ。


 そんなことが、あるはずはない。


 いくら、崩壊国家とは言え、一定の治安は維持されていたはずだ。


 それは、この国の、ある意味良いところだったのだから。


 『そんなもん、幻想に過ぎなかったかな。』


 連邦政府副首相は、めったに表に出ない首相の、全権代理みたいなものである。


 今回も、首相は、未だに、姿を現さなかった。


 すべての報告も、指示も、政府専用のネット上で行われた。


 副首相は、四国に訪問し、話し合うことを求めたのである。


 彼は、四国の内部で行われている極秘プロジェクトについては、もちろん知る立場にあった。


 政府内部でも、そこんところを詳しく知っているのは、首相と副首相と、防衛情報大臣だけだった。


 つまり、四国での食料生産の原料に関することがらについてだが。


 さらに、新しい防衛力の一環としての、防衛隊員の『採用・教育』に関してもそうだ。


 どちらも、老人が使われて、再生産されているなどと、言ってみたところで、誰も本気にはしないかもしれないが。


 副首相は、それでも、現場を見たことはない。


 いや、首相も見ていないらしい。


 防衛情報相だけは、極秘に、見に来たことがあった。


 今回、副首相に、防衛情報大臣の懐刀と言われる副官が付き添っていた。


 この人は、四国の工場にいる、あの、マッド科学者の1番弟子である。


 影の実力者であり、首相の強力な補佐役でもあった。一種のスパイでもある。


 副首相は、いつも穏やかな微笑みを絶やすことのない、また、言葉を荒げるようなこともしない、純粋な紳士だったが、その正体がどうなのかまで、立ち入って知っている人は、非常に少なかった。


 四国の食料生産方法などに関しては、あまり、賛成ではないらしかったが。



 ***********


 『早い話し、四国の防衛隊は、寝返ったわけですな。』


 副首相が、副官殿に、そのように尋ねた。


 『まあ、そうですなあ。』


 『ふうん・・・・なぜ? そうしたことが起る素地があったのですか?』


 『いいえ。そうした兆候は無かったと思いますよ。』


 『予測もしなかった?』

 

 『そうですな。残念ながら。』


 『ふう・・・ん。おかしな話ですなあ。なにかの、理由があるはずでしょう。』


 『ええ。それは、そうだと思いますね。今回、分かるかどうかは、なんとも・・・・・しかし、杖出氏が、背後にいたことは、十分考えられますし、たぶん、そうでしょうな。』


 『ふうん・・・・ぼくはね、あの人の事は、割と良く知ってるつもりなんですよ。彼が首相時代、ぼくは、総務大臣だった。』


 『もちろん、そうでしょうな。しかし、人間の本性というものは、なかなか、見えないものです。権力には、魅力があるものだし。』


 『ほう。あなたにも、魅力ですかな?』


 『ははは。わったくしは、国家、国民に奉仕するのみです。あなたは?』


 『まあ、そこに、同意しますよ。ときに、あなた、四国の例の秘密工場にいる、あの、生産責任者殿のことは、よくご存じ??』


 『まあ、学生時代からの、恩師でありました。』


 『ふうん。ぼくはね、会ったことがないんですよ。どういった方ですか?』


 『どう。。って言われても、ねえ。』


 『いやいや、一般的に言って、親しみやすい、とか、難しいとか、話しにくいとか、そう言う感じですがね。』


 『はあ。まあ、っそうですなあ。親しみやすい人ではないでしょうな。口数は少なく、冗談はなく、人前では、けっして笑わない。余計なことは、話さないですなあ。でもね、反応しなくても、こちらの話は、すべて分かってます。そういう前提で、話すべっき方です。』


 『神様みたいな?』


 『神様じゃないです。人間ですよ。あれでもね。』


 『ふうん。雰囲気、判りました。親しみやすい人じゃあない。てことですな。』


 『そうです。彼の信頼を得るのは、むつかしいのです。信頼されていると、確認するのもね。』


 『あなたは、信頼されてると、思うのですな。』


 『まあ、なんというか、気がついたら、そこにいた人なんです。ぼくの父と同僚だったので、よく、こどものころから、自宅に来てましたからね。そこにいて、普通の人だった。勉強も、見てもらったし。怖かったですがね。』


 『ほう。それは、初耳です。』


 『まあ、言いふらすはなしじゃ、っないから。』


 『もちろん、そうですな。できれば、間の人抜きで、会いたいのですが。』


 『ええ、まあ、相手次第ですが。そのつもりです。ただ、現在どういう状態っ、なのかは、分からないです。監禁されてる可能性が高いかと。』


 『ふうん。なりほど。ふんふん。いいでしょう。手荒な扱いをしていたりしたら、それはまた、考えなくては。』


 『ああ、まあ、会ってからです。会見すること自体は、相手も承諾してきてます。それもそうとして、杖出さんってのは、どのような人ですか?会ったことがないので。』


 『まあ、ざっくばらん、おおざっぱ。細かいことより、全体を掌握しますな。細かいことは、担当に任せてしまう。ふむ、でもね、結果はしっかりつかむのが、うまいですよ。敵にすると。なかなあ、難しいですよ。』


 『まあ、出てくるとは、思いますが、まだ、直接会う保証なはいです。』


 『そうでしょう。本人が、価値ありと判断しないと、出て来ない人です。』


 『なるっほど。それと、大山先生と言う方には、ご面識がありますか?』


 『うん。まあね。はははあ。あの人は、そうだなあ、天狗みたいな方です。正体は、誰も知らない。政治家ではない。正式な学者でもない。しかし、巨大な資産はある。博学で、どんな話題でも、誰も、歯が立たない。一部では、宇宙人ではないか? とか。いやあ、冗談冗談。』


 『はは、ひとが悪いです。副首相も。』


 『ぼくは、そんなに、複雑じゃない。』


 ようやく、ちょっと足の遅い飛行艇は、四国の空域に入ったらしい。


 あまり、新型ではない垂直離発着もできる戦闘機が二機、苦労しながら、旋回しつつ、付いてきているようだった。


 『あいつは、小型核ミサイルも搭載できるやつですなあ。あくまで、あれば、ですがね。混乱に乗じて、いただいたんですな。まあ、搭載可能な核は、ないはずですよ。』


 


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