第40話 『剣山の偉人』 その2

 洞窟の入口は、きわめてわかりにくい。


 外から見ると、岩陰に覆われてしまって、そこに入口があるとはおもえない。


 もっとも、平和な時代には、洞窟探検のスペシャリストたちがいた。


 ここが発見されていないわけがない。


 大災害の頻発と、おろかな戦争で文明社会が崩壊してしまってから、ここは秘かに利用されていたのだろう。


 10メートルほど奥に入ると、行き止まりになる。


 懐中電灯だと、自然の岩盤みたいに見えるが、手触りが明らかにおかしい。


 と言っても、判り易いスイッチが壁に在ったりはしない。


 「外からは、開かないですよ。向こうが開けない限りは。」


 宝田氏が言った。


 「不便ですな。」


 隣のボスが低く唸った。


 「まあ、手紙は無くなってるし、コンテナも今はない。こちらの訪問は、分かってるはずです。」


 「本人と言うのは、そもそも、どなたなんでしょうか?」


 我らがボスである。


 「ほんとに知らない?」


 ぼくが、再確認した。


 「知りませんよ、正体は。中央からは、触るな、と、言って来てました。」


 「ふうん・・・怪しいなあ。」


 「いえ、あなたこそ、知ってるんでしょう? 誰なのか?」


 「いやあ。それがですな、明確なことはないんです。でも、怪物とか幽霊の類ではないと、思いますよ。まあ、一種の秘密基地ですよ。たぶんね。」


 「そりゃあ、余計に怪しい。おかしな機械が林立し、銀色の制服を着た連中が、わけわからない仕事をしている? そこに、一見紳士風の、ちょっと、いかれた世界征服を狙うボスがいる。でも、食事の量は、そんなにない。せいぜい、3人まででしょう。」


 「まあ、映画と違って、人間は必要ないのだろうと思いますよ。ぼくが持ってる情報では、ここには、『四国独立党』の本部があった。いや、ある、かな。」


 「あなたは、関係者?」


 「関係者ではないんです。部外者です。しかし、共闘したい。彼らの目標は、四国の独立であり、僕らは、四国にいる老人による、クーデターです。彼らは、かなり古くから存在していたのです。第二次大戦後には、各地に独立運動がありました。まあ、ユートピアみたいなものだけど。その末裔です。それに、昔は、四国にも若者がわんさといた。今は、老人ばかりだ。だから、いまや、ニア・イコールになったわけですよ。彼らは、実は強力な武器を入手している。もちろん、核です。ぼくが押さえているのとは別に。しかも、弾頭の数は、倍以上持ってるはずです。ただ、ここんとこ、目だった動きはしていないです。リーダーは、もう相当高齢で、もしかしたら、内部で何かの問題があるかもしれない。でも、食事をしているなら、生きてるんだからね。」


 「ふうん。われわれも、巻き込もうと?」


 「だって、あなた方、付いて来たじゃないですかあ。」


 ボス二人は、顔を見合わせた。


 もちろん、彼らが、最終的に味方とは言えない。


 帰ったら、しっかり中央にご注進するかもしれない。


 それはそれでよい。


 太平洋には、ぼくらの潜水艦が潜んでいる。


 瀬戸内に入ってくるのも、まあ、出来ない事はない。






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