第36話 『隣の施設』その2


 基本的に,民生用であるわが施設は、全体的に見た目は開放的な作りになっている。


 ただし、入所者が、施設の外に逃れることは難しいが。


 まあ、逃げても、生き延びられるかどうかは、かなり怪しい。


 第一に、老人ばかりだし。


 それに対して、この建物は、玄関からしても、極めて重厚で無愛想だ。


 何と言っても、窓が小さくて、外光があまり入って来ない。


 訪問者がくつろげるような環境にはなっていない。


 いや、そうした必要性がないのだろう。


 そもそも、この施設はいったい何なのだろうか。


 そこで、まず重要なのは、入口の看板である。


 だから、ぼくは当然のように、そこをまずチェックした。


 外門の柱に掲げてある標識は、こうだった。


 『四国移住管理局』


 『四国移住管理局食料品管理部』


 『四国移住民管理部』


 と、こうなっている。


 表の庭は、我が施設に比べて、非常に簡素で、飾り気がない。


 小さな駐車スペースはあるが、何かを製造して出荷するような雰囲気ではない。


 もっとも、そうしたものがあるのは、裏側か、地下に違いないが。


 ここからでは、反対側はまったく伺い知れない。


 建物の玄関には、同じ表札が並べて掲示してあるが、もうひとつ追加があった。


 『四国移住民監理局四国支部』


 である。


 『移住民監理局』というのは、ぼくの知る限り、新内務省の外局だが、実は司法警察権を持った職員がいる。


 つまり、法に反した移住民や関係者などを、逮捕・起訴ができる。


 四国には、通常の警察がない代わりに存在しているので、事実上の警察組織だと言われている。


 しかし、本州側にいる人は、関わることもなく、その実態は、まったくわからないのだ。


 それにしても、人がさっぱりと見当たらないし、音もしない。


 そこは、かなりいかがわしい。


 まあ、それなりに、非常に強い権限があるというわけだが、ぼくらの施設は、最終的には、新厚生省の管轄である。


 異なる省庁が相乗りになっているわけだ。


 ぼくたちは、彼らに連れられて、やや奥まったところにある『応接室』に通された。


 誰とも、すれ違わない。


 しかし、簡単には、脱出できそうもない場所だ。


 どこからでも、前後を封鎖されてしまうだろう。


 まあ、それは、考えすぎなんだろうけれども。


 この応接室は、我が施設のよりも、かなり広い。


 役所の応接室は、トップの序列によって、大きさが変わって来ることが普通である。


 小さな出先官庁の場合は、応接室は所長室と兼用であることが普通だ。


 もし、支所だったものが、出張所に格下げになったような場合は、出張所(署)長は、個室から追い出されて、デスク一個を与えられることになったりもする。


 本所(署)長より大きな部屋にいることは、許されない。


 もっとも、人によっては、勝手に入り込んで利用することもある。


 そうでないと、事務処理が出来ないからである。


 ぼくの知るところ、彼らも気の毒だが、もっと気の毒なのは、だいたいは、ナンバー2である。


 昼間は内外との対応に追われ、自分の事務が出来るのは、終業後になるからだ。


 だから、ナンバー2は、なかなか帰れない。


 しかも、内外から叱れることが多い。


 トップが対応すると、後がないから、めったなことでは出せないので、負担が大きい。


 ナンバー2は、どこも、大変であるが、万年ナンバー2も存在する。


 それ以上には上がれない定めの人もいる。


 もっとも、マスコミにいたぼくらは、自分の時間などはないのが普通だが。


 体が丈夫でないと、彼らも、ぼくらも、長くはやってはいられない。


 しかし、経験上から言っても、この部屋はでかい。


 ということは、その必要性もあると考えるべきだろう。


 いったい、誰がここに訪問してきて、なにを話すのだろうか。


 ここを見ただけでも、収穫だったのである。


 ここのボスは、間違いなく力がある。


 


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