第32話 『自決公社の自決』 その8 


 「われわれは、協力すべきです。ぜひ、ここで、そこを確認したい。詳細まで今決める必要はない。異なる点を過剰に浮き上がらせることもないでしょう。ただ、目標が一致すればよい。」


 突然、施設長がそう、言った。


 もちろん、それが、彼女の本来の目的だったわけだ。


 「それは、突飛すぎです。だいたい、あなたは、国側ですから、根本的に立場が違う。一致するはずがない。」


 保田さんである。


 いささか、びっくりしたらしい。


 「じゃあ、重要な論点と思われる事柄をあげて、意見を言ってみてはいかが?」


 これは、ぼくの提案である。


 よく、そんなこと言ったものだ。


 果たして、皆が本音を言うかどうかさえも、わからない。


 とはいえ、どのようなことも、こうした話し合いは必要だ。


 そうでないと、どっちに行くにも、ばらばらに進むことになる。


 そうして、瓦解する。


 ばらばらに。


 そこに載っている本体は、崩壊する。


 なかなか、興味深い晩になりそうだ。


 「では、まず、この施設について。あたくしから申します。まず、国側の考えです。はっきり言って、いま、中央で、真剣にここのことを考えていいるものは、ほんとんど、いません。」


 施設長が言い切った。


 「なんと。最初から、恐るべき発言ですなあ。」


 これは、ぼく。


 まてまて、あまり、出過ぎてはならない。


 「ほとんど、と、申しました。つまり、考えている人は、います。首相がそうです。」


 「現在の首相は、妄想の日々とかいう、うわさが流れて来ておりますが。」


 また、保田さんである。


 「一部に、そうした観測があることは事実です。しかし、彼は、バカではない。はっきり言って、彼は、ここを、早く廃止する考えです。」


 「ほう。ここにいる人々は、どうすると。」


 「さて、そこです。彼は、一定の期間内に、全員自決させる方向で考えています。そう長くない期間です。あと、2年以内にも。ここだけではない、四国のすべての施設でです。」


 「我々は、全員の開放を求めています。また、自由に自活できる最低限の支援を要求します。」


 保田さんが、基本姿勢を言った。


 「あたくしは、首相の全員自決。が、絶対に受け入れられない。国側の命令であっても、従わない考えでいます。」  


 よくぞ、言った。


 この施設長、大物か、ばかか、どっちかである。


 側近の課長さんが、何者か、分かって言っているのだろうか?


 そこで、ぼくは、まず、こう発言したのである。


 「じゃあ、まず、ぼくの知ってる周辺情報を開示しますね。まず、秘密結社『緋色の絆』です。彼らは、宗教的独裁による、革命的世界国家の樹立を考えています。かなり戦闘的です。核になるのは、タルレジャ王国の『タルレジャ教』です。第1の巫女である、王女へレナさんを担いで、世界統一を目指します。ここのメリットは、何と言っても、タルレジャ教会の持つ、財力と秘密の力です。ここんところの世界的な破滅的災害の被害も、ほとんど受けていない。核弾頭も飛来したが、なんらかの技術で、すべて排除しています。それは、事実です。それを、彼らは、第1の巫女様の超能力だと、主張しています。王国は、実際、膨大な資金力があり、謎の軍事力を持つと言われます。問題は、当の王国の教会や、王女さま本人たちや、王国政府には、まったくその気がない事です。そもそも、『緋色の絆』は、非合法になっています。また、王女自身は、積極的に、世界中の難民の支援を行ってきています。しかし、この国の指導者は、あまりそれを受け入れたがっては、いないようですな。もし、『緋色の絆』の仲間たちならば、まずは、この施設をすぐに武力攻撃し、支配しようとするでしょう。こういう話し合いは、やらないですよ。」


 ぼくが、まず、その一個めの団体について、説明をした。


 「首相が、あまり受け入れたがらないのです。友好国なのに、いささか、不可思議です。その理由は、実はあまり、わからない。ただ、前首相の時代に、王国政府と小競り合いがあったことは、事実のようで、その愛弟子の意地かもしれない。なら、ばかなことです。むしろ、あの王国とうまく付き合っていた方が、その『緋色の絆』がらみでも有利だと思うのですが、首相の考えは逆で、相乗りされることを、非常に恐れているようです。」


 施設長が応えた。


 「一部に、すでに、協力関係があるのではないか、という推測もありますからね。慎重にはなるでしょう。」


 と、ぼくが追加した。


 「あなたは、たしか、タルレジャ教徒ですよね。」


 総務課長が口を出した。


 この人は、実のところ、要注意人物なのである。


 特に、説明してもらってはいないが、ぼくはこの人のことなら、いくらか知っている。


 内閣中央情報室の出身で、いくつかの大使館員もしたほどだ。


 要は、元、スパイである。現、かもしれない。


 つまり、こういう話は、きっと、すべて知っているはずの、彼がすべきなのだが、おそらく、それは、やらないだろう。


 秘密の漏洩になる。


 表には出たがらない人である。


 まあ、やなやつといえば、そうなのだが。


 だから、代わって言ってあげている。 


 「ええ、そうですよ。公表してます。」


 だからどうだ、と、言う人は、ここには、他にはいないようだ。


 この国には、信仰の自由があり、まだ、生きているはずだ。


 タルレジャ教は、王国以外では、ごくごく、小さな宗教だ。


 逆に言えば、珍しがられる。


 他の宗教を、同時に信仰することも許しているほどの、変わった宗教でもある。


 しかし、この国は、むしろ、そのような場合が多い。


 「続き行きます。カルト集団『コロナの嵐』は、コロナウイルスによる、パンデミックの時代末期に登場しました。名前からしたら、非常におとなしい集団で、面倒な事件を起こしたりはしていません。出入り自由というのが、彼らの売りです。教祖は、ギリシア生まれ、北欧育ちの女性です。やはり、たいへんに、神秘的な人ですよ。ぼくは、一回、直接、取材した事があるのです。」


 「え、それは、まことにですか?」


 意外と、課長が素直に言った。


 「ええ、そうなんです。彼女は、お忍びで来日した事がある。ご存じなかったですか。」


 「いやあ。どうかなあ。」


 ほう、この課長さん、もしかしたら、思っていたよりは、面白い人物かもしれない。



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