第6話 『老人収容所』その3

 建物の周囲は、高い壁で覆われていて、その、向こう側の様子はうかがい知れない。


 周囲の庭の散歩は出来るが、それほど手入れの行き届いた庭ではない。


 まあ、そんな余裕はないに違いない。


 草ぼうぼうではないだけでも、大したものである。


 ところで、なぜ、ぼくはここで2日近く待つことになったのか。


 不思議に思ってもいたが、実は簡単な事であった。


 それは、二晩ここで寝て、夜明け近くに起きてみて分かった。


 大きな『空中バス』がやって来たのである。


 これを待っていたに違いない。


 かなり、沢山の人が下りてきたのである。


 しかし、彼らはぼくのように個室に入ることはなさそうだった。


 そのまますぐに、大きなミーティングルームに集められたのである。


 ぼくも、間もなく、そこに呼び出しを受けたのだった。



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 50人余りが集まっていた。


 みな、それなりの年齢と思しき人ばかりである。


 男女は、ほぼ半々というところだろう。


 一緒にくっ付いているのは、夫婦に違いない。


 杖をついている人もいる。


 車いすの方も数人いらっしゃる。


 長いテーブルを挟んで、縦長に二列になって座っていた。


 前方には、ぼくに同行していた4人のほか、さらに10人ばかりの職員さんが並んでいる。


「このあと、ここで朝食が出ます。それが済んだら、いよいよ居住地行きのバス2台に分乗して出発します。各自、ネームプレートを確認してください。居住地は分散していますから、途中でそれぞれの割り当て地に降ろして回ります。ご夫婦は、基本的に同じ場所に行きます。ただ、どこに行くかは、こちらにお任せください。場所による条件の差異は、ほぼ、ありません。いろいろご心配でしょうけれど、こういう時節柄です。助け合って生きてゆきましょう。では、御食事です。カレーライスです。もっとも、あまりきつい味付けにはなってないですからご安心を。カレーというよりも、カレーみたいなもの、という方が良いでしょうか。」


 笑い声が上がった。


 しゃべっていたのは、僕が知らない人物である。


 たぶん、空中バスに乗ってきたのだろう。


 『カレー』らしきものが食べられたなんて、多くの人にとっては、これが最後になったのだけれども。



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