第4話 『老人収容所』 その1

 『空飛ぶ箱』または『空飛ぶ棺桶』は、地上に降下した。


 そこには、三重になった丸い光の輪が描かれていたのである。


 地上では、白衣を着た人間が3人、待ち構えていてくれた。


「どうぞ、お降りください。」


「ども。」


 右側のドアがすっと開き、ベルトが外れた。


 正直言って、いつか読んだ小説みたいに、海の真ん中で床がさっとひらいて、落っことされるんじゃないか、と、ずっと考えていた。


 まあ、それはなかった・・・あたりまえだが・・・ので、ちょっと安心した。


 降りて見れば、彼がふたりに、彼女がひとり、であった。


 みな、おそろいの緑色のネクタイを締めている。


「ようこそ、『グランド・グリーン』へ。」


「ども、それが、ここの名称ですか。」


「まあ、『愛称』です。正式名称は『四国移住地域第1ステーション』です。


「味もそっけもないですな。」


「でしょう。私は、ドクター出水です。こちらはドクター玉柏、それから、こちらがドクターリンです。それから・・・・」


「保田です。今日から、ここが勤務地になります。私も引っ越しという訳です。」


「ああ、なりほど。そうなんだ。あなたも、つまり、ドクターなんですか?」


「そうです。私は、心理学が専門です。」


「そりゃあ、結構なことです。」


「たしか、あなたもドクターなのでは?」


「ぼくは、本来、考古屋ですよ。穴掘り専門。役に立ちません。太古のうんちの論文で取ったものですから。」


「それは、心強いことです。まあ、詳しい事は、午後になったら入所ガイダンスを開きますから、そこで。それまでは、部屋で休憩していてください。お疲れでしょうから。」


 ドクター出水が言った。


 大きな名札が胸についているが、近眼で老眼で乱視のぼくには、なかなか焦点が定まらない。


「あなた様には、当面個室が用意されます。やがては、個室のままがいいか、共同部屋が良いかは、個人の資質を見ながら判断します。」


「誰が判断するのかな?」


「基本的には、我々スタッフですが、もちろんあなたのご意向が一番です。」


「料金が高いとか?」


「ああ、そうした事はございません。ここは、基本的にすべてのサービスが無料です。まあ、ガイダンスまでお待ちください。お部屋へ、ご案内して。」


 ドクター玉柏が応えて言った。 


「はい。じゃあ、行きましょう。ドクター。」


「神田さんでいいです。」


「じゃあ、神田さん。」


 そこはちょっと広めの運動場のような場所だった。


 まず言えることは、ずらっと塀が周囲を巡っているらしい、ということ。


 これが何を意味するのかは、よくわからない。


 なんとなく、多くの視線を感じるような気がするのは、単なる気のせいなのか。


 正面には、三階建て位の奇麗な建物がある。


 照明に、あわく照らされている。


 夜の建物は、必要以上に美しく見えるものだな。


 ぼくは、ドクター玉柏と、保田さんに付いて行った。



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