『移住』
やましん(テンパー)
第1話 『移住』
※ 基本的に、これは別宇宙の世界のお話であり、たとえ同じ地名や人名であっても、まったく、我が宇宙とは無関係であります。
2045年、4月1日、日本政府は、ついに一部の例外を除く、『高齢者』の強制移住を実行に移しました。
一部の例外といいますのは、たとえば、政府の大臣クラスさん、現役の国または地方公共団体の議員さん、一定の範囲の官僚さんと公務員さん、法人個人を問わず、規定範囲内の企業の経営者さんと、一定の範囲のその役員さん、さらに彼らが特に指名する人、また、一定額以上の『高額納税者』、その他、『移住を実施した場合、国家に不利益となると判断される個人』などでした。
このうっかり移住されては『国が困る』人というのは、たとえば、『伝統芸能の技能保持者』さんや、『芸術家』さんや『学者』さんのなどの中で、特に国が選定した人・・・などです。
これは、復興後の日本に、伝統や技術を伝える役割の人が必要だからです。
移住先は『四国』地域です。
なお、逆に『四国地域』の60歳未満の、一部の例外を除く人たちは、『本州・北海道』側に強制移住となるのです。
この場合の例外は、病気やケガ、障害などで、移動は困難と判断される人、さらに、『四国』内の治安や秩序の維持に必要な人たち、また、逆に四国内でないと活動できない、『技能保持者』さんや『学者』さんなど、です。
ちなみに、『九州地方』は、姶良カルデラと、阿蘇山の相次ぐ大噴火や、連続大震災の影響も重なって、ほぼ全域が居住不能、または居住困難となっておりまして、研究者さんや必要なごくわずかな公務員さんを除いて、ほとんどの人たちは、本州から北海道地方に移住していました。
さらに、度重なって起こった、東北、東海、南海、東南海、瀬戸内、九州沖の、『大』または『巨大地震』で、本州の太平洋側や沖縄地方、瀬戸内海沿岸部、四国地方は大きな被害を受けました。
その多くの地域は、当分、住むことは、まず不可能な状態になっておりました。
なので、『四国地域』に移住と言っても、それは中央の四国山脈を中心とした一定の範囲、あたりに限られます。
専門家の人たちからは、「いったい、どこに住まいを与えるのか?」と、かなり疑問を呈する声もなかったわけではない、らしかったのですが、最後は、総理が一人で決めてしまったと言うのが、本当らしいのです。
少なくとも、向こう100年以上は、この状態のままになるだろうとも、言われております。
実際のところ、たくさんの火山灰の影響もあって、主な工業地帯や都市は、ほぼ活動不能となり、経済は破綻し、なんとか生き残った国民の生活も、欧米や中国、ロシアなどからの支援で、飢餓状態すれすれを維持している、という様子だったのです。
国際的には、そう認識されていました。
しかし、実態は、とっくに、すれすれ以下であり、餓死者が多発している、と、一部では言われてもいましたが、情報があまりうまく伝わらないので、実態はかなりの謎になっておりました。
もちろん、『巨大地震』の津波は、アジア各国から、北米・南米をも襲って、大きな被害を出してもいました。
このところ、そこに追い打ちを掛けるような『巨大破滅的災害』が、今度は『北米』を襲うのではないか、いやいや、小惑星が間もなく落ちてくるのだ・・・というような、噂や、デマも、さかんに飛び回っておりました。
でも、今、実際に危ないのは、『富士山』でした。
その活動は、活発化する一方で、小さな噴火はもう、何回か起こっていました。
大噴火が間もなく起こるのではないか、と、専門家や政府筋も認識をしていたのです。
そんな中で、日本政府では、絵江府総理による強力な独裁体制が、もう15年以上続いてきておりました。
この困難な非常事態にあっては、やむ負えないことだと、多くの国民は諦めてしまってもいたのですけれど。
東京や大阪は、すでに壊滅状態になっておりましたので、首都機能は、長野県から京都府に掛けて、分散移動しておりました。
政府の中央機能は、岐阜県の山中にあった、『第1東京大学』の『地下観測研究施設』に、移設されていました。
総理をはじめ、多くの閣僚の人たちは、だいたいここに収まっておりました。
一方で、『国連』は、日本への軍事介入は決して認めない、と言うことで、一応合意はしていました。
しかしまた、国連から派遣された『治安維持部隊』が、日本各地に配属されてもおりました。
不埒なテロが発生しては、困るからです。
***** ***** *****
ざっと、こうした状況の中で、『地球日本放送』は、2045年3月31日をもって、AM放送を終了させました。
この『地球日本放送』は、かつてのNHKや国内の民間放送局を統合して作られた、現在国内唯一の放送局で、国と民間、それから支援各国の援助で設立されたものであります。
本当は、AMによる放送は、とっくに廃されて、FM波による放送と、パソコンやスマホ対象の通信による放送に集約される予定だったのですが、相次ぐ災害の発生で、中波帯域のラジオの必要性がさらにあったため、延び延びになってきていたのです。
それも、もはや維持するのが困難となり、ついに終了となるのです。
もっとも、実は、維持できない事はないが、どうやら総理が止めるように指示したらしい、とも言われておりました。
自分の悪口が、不用意に伝えられる事例があったから、ということらしい・・・とも。
その真相は、国民は知り得ませんでしたが。
確かに、実のところは、いささか政府寄りの内容ばかりではありましたが、多少の娯楽番組も残っていて、そこでささやかに語られる、軽いユーモアや、音楽が、生き残った国民の、わずかな慰めでもあったのですが・・・。
この放送局の、もう、引退間際だった、最後のアナウンサーさんが、このお話での、主人公なのであります。
彼以降、放送のアナウンスは、ほぼすべて『合成音声』と、なったのです。
放送は、ラジオのような『音声』だけのものと、テレビにあたる『映像付き』のものの二本立てで行われ、どちらも、朝8時から夜9時までの毎正時から、各30分放送でした。
しかし、番組内容は、双方、毎日だいたい同じようなもので、ニュースと、総理の国民に対する『励まし』メッセージや、政府選定の支援ソングが、その中心となりました。
政府を批判するようなものは、もう、まず、まったく、なくなりました。
************ ************
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます