DA PUMPだ

武論斗

だっぷんだ

 う、うーん……

 ね、寝苦しい……


 緊張のせいで眠りが浅いのか。

 オレは何度も寝返りを打ちながら、もだえていたんだ……



―――



「うっ……うぇっ、うぇっぷ……」



 き、きんちょーする。

 1年の時、消しゴムを拾ってもらったアノ時から、アノ子の事が気になって気になって気に入って好きだった、驚異的に。

 ずっとモヤモヤしながら陰キャなオレは何一つ接点がないまま2年になっちまってクラスが変わっちまった。

 もうじき夏休み。ココで告白しなきゃ、オレは恐らくずーっとぼっち。エターナルソロだぞ!

 バカヤロー!ストイック/落ち着いている/孤独が好きそう、ってイメージ、ソレ、全然違うから!

 はしゃぎてーから!オレ、はしゃぎまくりたいからっ!浮かれたいからっ!

 ヒトの目が気になってできねーだけだからっ!

 でも、もうヤメだ!人目気にしてフガフガすんの、イヤイヤイヤッ!


 冗談じゃねー!キメてやる!

 「ヤレばデキる子」……ずーっとそう言われてきたんだ、オレは。

 そう、ポテンシャルは高いんだ、53万くらい。いつだってオレは変身を残してる。ただ、みっともない姿を見せたくない、ソレだけ。

 ただ、ヤラないだけ。だからっ、今日こそ、やってやるって!越中みてーに!


 校舎裏に呼び出す手筈は整えた。昭和スタイルの下駄箱に手紙をブチ込み呼び出すっつークラシカルな芸当。おもむき、がある。呼び出しから告白までのタイムラグ。この時間的経過観測が、ドキドキ感を演出し、告白を成功させる確率を高めるんだ!

 ストックホルム症候群、ってヤツだ!いや、コレは違うな……なんだっけ?まっ、そんなこたぁ~、どーでもいいんだよ!

 LINEなんかで呼び出すよりよっぽど情緒があってお洒落だろ?

 まあ、彼女のID知らねーだけだけど。


 オレの圧倒的ユニークスキル「リサーチ」。そりゃ~、年がら年中、アノ子を見てたんだ。ストーカーがヒク程に。

 調査済みだ、彼女が好きなモノを。

 それはっ!

 ――TikTokとDA PUMP。

 くっそ!陽キャ丸出しじゃねーか!アルファベットまみれじゃねーか!

 オレとは対極。陰と陽、光と影、太陽と北風、北斗と南斗、愛と誠、モリゾーとキッコロ、ケモフレ1とケモフレ2。とにかく、真逆じゃねーか!


 だがっ!

 オレはヤレばデキる子。

 アノ子に気に入られるためなら何でもヤル!(何でもヤルとは言ってない)

 オワコン化する前にヤラねば。

 DA PUMPの例のヤツはもう去年の話。ふるっ!って言われる前にヤラなきゃ、告白しなきゃ、オレの存在意義は0以下になっちまう。

 本当のところ、去年の初夏の段階で例のヤツ、マスター済み。だが、勇気がなくて引っ張っちまった1年程。くそー、収集力と習得力はたけぇーって自覚してんだが、行動に起こせねー。それがオレのショボさ。


 しかしっ!

 すでに告白への行動は決行済み、決めるっ!

 計画は、こう、だ!

 DA PUMPの例のヤツを踊りながら、替え歌披露、その歌詞の内容で告白、だ。

 えっ?

 くっそダセーって?

 うっせー!!チクショー!

 テンパッたドーテー野郎のオレができる小細工&サイコーのクオリティーなんて、こんなもんだ。

 ホントはTikTokに動画投稿して告白することも考えた。

 だが、オレのケータイは――ガラケー、だッ!

 スマホとか言う未来兵器、オレは持ってねぇー!!

 ウチの親はきびしーんだよ!しつけ、が?ちがうちがうっ!経済的に、だっ!


 そろそろ時間だ。

 彼女がくる時間。オレが勝手に決めた時間、とも言える。

 しょーじき、2時間近く、ココで待ってる。オレは時間にきびしー。遅刻、とかぜってーしねぇ~!

 なお、ずっと立ちっぱなし&そわそわしてたから歩き回って、オレの膝は限界に近い。オレの貧弱な体力、ナメんなよ!



 キターーーッ!

 マジかよ!

 彼女、本当に来てくれたッ!!

 なんか知らんが、もうソレだけで感動だ。

 なんて、イイ子なんだっ!ロクに話したこともないオレからの謎の呼び出しに応えて来てくれるなんて。

 正直、ホレそー!いや、すでに惚れてるんだっけ。

 なんか目頭があつくなる。なきそー。

 いやイヤいや、コレからだ。本番はっ!


「……」


 目の前に来てくれた彼女は無言。うつむき加減。

 き、きゃわいい!

 オレからだ!オレから話さなきゃ!!

 き、きっ、きんちょーするぅー!


 ――きゅるるるるぅ~~~ッ!


 ハッ!!!

 ウソだろ!?

 オレの貧弱な胃が、キリキリ痛み始めたかと思ったら、くっそ!もよおしてきやがった!

 マジかよっ!?

 この土壇場にきて、おなか痛くなってきた。

 いやっ、コレは……

 痛いんじゃあない!

 こ、コレは……


<うんこ、だ>


 ガッデムッ!

 うそやろ?ここにきて、クソしたくなってきた。

 くそっ!なんてタイミングだ。

 こんな時に、今、この時にっ、うんこ、したくなった。しかも、コレは、ユルいほうだ!!!

 なんてこった!

 極度の緊張に、オレの胃腸が、括約筋が、ストレスに耐えられなくなっちまいやがった!

 恐らく、原因は昼間喰った即席焼きそばか?

 くっそぉー!お気にのVtuberのホルモンちっくなCMに騙されて買ったカップ焼きそばのソースが濃過ぎて、腹がヤラレちまったんだ。

 うかつ!

 告白する予定日の昼食に、濃厚なモンを喰うんじゃなかった!

 後悔先に立たず!


 耐えられるのか、オレ?

 DA PUMPの例のヤツ、サビんところでピョコピョコ跳ねなきゃいけねーんだぞ!

 とてもじゃねーが、肛門、もたねーぞ!

 カモンベイビーって呼び掛けてくんの、合衆国じゃなくて、クソのほうじゃねーのか?

 マズイ!

 だがッ!

 千載一遇のチャンス。もう、二度と彼女は来てくれないかも知れない。

 強行、せざるを得ない。

 ココで引いたら負けだ。

 敢行してやるッ!



 なんか色々、しゃべった気がする、ヲタ特有の早口で。

 そして、オレは踊ってた。

 彼女を呼び出してから、その彼女の前でDA PUMPを踊るくだりまで、大分、強引だったはず。

 だが、なんか知らんが、オレは踊ってた。

 いや、踊らされていた、運命、に。

 とうの昔に覚えたダンス、間違いようがない。

 陰キャ、且つ、ロクに知らない男子が、急に目の前で踊る。しかも、替え歌付きで。

 そりゃもう、ソノ子にとってみれば、恐怖、以外のなにものでもないはず、だ。

 でも、極限まで追い詰められたオレは、その妄想と現実の中、なぜか、コレが成功したら彼女と付き合える、と信じて疑わない妄執に取り憑かれていて、痛々しくも激しく、情熱的に踊りまくったんだ。


 そりゃもう、滑稽。

 校舎裏で繰り広げられる地獄絵図。

 見知らぬ男子が、急に踊りまくる、絶対に笑ってはいけない拷問シリーズ。


 しかも、懸念していたオレの肛門は、サビを待たず、タイキックをくらうまでもなく、決壊、していた。

 MP3で流すDA PUMPの楽曲のリズムにピッタリと合った感じで、オレの肛門から、ブピッ、ブピッ、ブピュッ、と裏打ちを決めやがる。

 ケツ周りの違和感なんか、もうかんけーねぇー!

 ともかく、オレは踊りまくった、クソまみれで。


 オレの記憶はソコで終わる。

 なにが起こったのか、ナニも覚えていない。

 泪と鼻水、クソを垂れ流しながら、オレの記憶はソコで消失したんだ――



―――



「あはははっ」


 ハッ!

 笑ってた。独りで笑ってた。

 かーなーりー、ヤバイぞ、オレ!


 ――見知った天井。

 目を開けたオレは、そのきったねー天井を見ていた。

 ソコはオレの部屋。ベッドの上。そう、オレは、寝てたんだ。

 一体、なにがあったんだ?


 暑い――

 やけにかいた寝汗がまとわりつき、悪夢にでもうなされていたかのような徒労感。

 なんも覚えてねぇー。

 なんか知らんが、とてつもねぇ~悪夢でも見ていたかのような感じ。


 ――ハッ!

 急な強迫観念にさいなまれる。

 寝ながら、ケツあたりを手でまさぐり確認する。


「――だ、大丈夫……か」


 ありえねぇー話だが、なんか、もらした気がした。

 寝小便?いやいや、違う、寝グゾのほうだ。

 だが、さすってみて大丈夫だったことにホッと一安心。


 夢を見た。

 ハッキリとは覚えてない。

 覚えてはいないが、寝ている間にトイレに行きたくなった、コレだけは間違いない。

 オレは夢の中でトイレに行き、ほっと安堵感を得た。そんな夢だ。

 だが、実際にはトイレになんか行ってなかった。


 まったく、あぶねートコだよ!

 トイレに行った夢を見て、寝小便どころか寝グソなんかしてたら、もう、何もかも終わってんだろ、オレ!?

 ヤレばデキる子、って、そー言う意味じゃねーからっ!


 時計を見る。

 もう、7時か――

 起きなきゃ……


 それにしても、なんか他の夢も見ていた気がする。

 なんか、寝汗かくほど緊張感があったが、すごく楽しい夢だった気が……


 あっ!?


 ――そうだっ……

 そっか――

 アノ子への妄想が過ぎて、とち狂った夢、見てたんだっけ。


 あはははっ――


 乾いた笑いを浮かべた。

 ケツが乾いていたのが、唯一の救いだったよ。


 悪夢のせいで眠りが浅い。

 もう一眠りしたい、な。

 なんか知らないけど、凄く疲れたから――



 ――ピコン!

 ん?――


 枕元に置いてあったケータイにショートメールが届いた。

 ガラケを使ってるオレのところに、こんな早朝、届く通知なんて、一体、ダレからだろう?


 そこには、一言――

 ――だっぷんだ

 、と。


 なにごと?

 続けて、外で待ってるよ、と。

 窓の外を覗けば、彼女の姿が――



 ――ハッ!!?


 思い……出した……


 アノ子の前で踊りまくったオレは耐えきれなかったんだ。

 明らかに、とんでもない悪臭を撒き散らすオレを、例え、彼女じゃなくても勘付いたはずだ。コイツ、クソもらした、と。

 ただ、一心不乱に踊りまくったオレに対し、彼女は言った。


「DA PUMPだ!」


 オレは、乾いた笑顔を絞り出すように、クソをひり出すように、

「いや、脱糞、だ!」

 、と。


 オレと彼女は、付き合いはじめた。

 だっぷんだ、ソレが彼女との合図、挨拶。


 そして、その彼女が今の女房――



―――



>> 嘘松乙


>> いや、本当だって!!!


>> 夢でも見てろ!


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DA PUMPだ 武論斗 @marianoel

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