第十九話 あたらしい仕事【003,004】

003.

僕は、以前に来たギルドとは別の、町で最も大きいギルドに来ていた。

そうとは言っても、それは王都フェンテ・メンテのギルドよりも遥かに小さく、人も少ない。

僕は扉を開けて、受付へと向かう。


「冒険者の方ですか?」

「いえ。そうではなく、ここで働きたいのですが……」

「そうですか。ならこちらへ来てください。」


受付の男は事務的に僕を裏へと案内した。


「こちらで働かれるのですね。受付か掃除、どちらが良いですか?給料はどちらも同じです。」

掃除の方が簡単そうだし、人に顔を見せなくてよいから楽そうだ。僕はそう思い、返答する。

「掃除でお願いします。」

「承知しました。ではこちらの契約書にサインを。労働時間は朝から夕方まででよろしいですか?」


僕はそのざっくりとした聞き方に違和感を覚え、聞き返した。

「え?実際に何時からですか?」


するとその男はいかにもかったるそうに「いえ。適当に来て適当に帰ってください。そこまで細かくは決まっていません。」と言った。

「本当ですか?」

僕は心の中で喜び、契約書にサインした。


こんなに厳しくない規則でお金を稼げるというのは、どれだけ楽なことなのだろう。

「では、明日から来てください。出勤したら、そこに置いてあるモップで地面を掃除してください。机が汚れていたら、拭いてください。」


そう言って、その男は契約書をしまい、まただるそうにその部屋を出て行った。

僕は手元に残っている銀貨を見て、「今日寝るところあるかな。」と言った。


結局僕は、ギルドの近くにあった店に行き、一番安い串を買って食べ、安い宿に泊まり、一夜を過ごした。


004.

次の日、僕は結局何時に行ってよいかわからず、朝7時に向かった。


しかし、そこには誰の姿もなかった。


僕は不思議に思い、「さすがに早すぎたか。」と言って、ギルドの前に座って待った。


一時間後、まだ誰の姿も無い。

ここまで誰もいないと不安になってくる。


さらに一時間後、ようやく人の姿が散見されるようになった。

しかし、ここで働いている人の姿は無かった。

「ギルドの入り口にはみんな並んでるのに……」


僕は不安になり、並んでいる人に声をかけた。

「みなさん待たれていますが、ここは何時から開くんですか?」

するとその人は僕の顔を見て不満げに言う。

「ここは毎日何時に開くのかわからないんだ。だから僕はこうして待たされているんだよ。」


これだけ客が困っているのにも関わらず、何故誰もなにもしようとしないのか。


僕はその人に謝り、もう少しだけ待つように言った。



さらに一時間後、ようやく働きに来た人が現れた。

「すみません。ここ、こんなに遅くから始めるんですか?」

「あ、はい。そうですが。誰ですか、あなた?」

「あ、そうですよね。僕、ここで新しく働き始めたスピカと申します。よろしくお願い……」

「そうですか。では。因みに、契約書に始業時間は朝としか書いていないので、早く来なくてもいいと思います。」


その男は僕の話を最後まで聞かないまま、ギルドの鍵を開けて中に入っていった。


冷たいなぁ。挨拶くらいしてもいいだろう?

しかもこれから一緒に働く仲間なのだから、話をしてもいいじゃないか。



僕はその時まで、そのようなことを思っていた。

しかし直後、働き始めてから僕は全く予想しない光景を目にするのである。

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