第十七話 円卓会議【006,007】

006

その後僕は牢に入れられた。


いつ殺されるんだろう。

なんで僕は殺されなければならないんだろう。


僕は初めて死に直面していた。

その恐怖に慄き、壁にもたれかかる。


外はすっかり暗くなり、月明かりが薄気味悪く牢の中を照らしている。


「怖い。怖いよ。みんな助けに来てよ。」


僕は一人でぼそぼそと呟き、体を震わせる。


一度きりの失敗で、殺されなければならない。


それが正しいか、間違っているかなんて関係なく。


僕は以前にルドルフさんから言われた、「理不尽さ」を思い出していた。


「人生には理不尽なことがつきものだ。だから理不尽の乗り越え方を考えよ。」と。


でも、今の状態でこの理不尽を乗り越える手段は存在しない。

あるとすれば脱獄くらいだ。


しかしこの国は衛兵の権力が強いため、もし辛うじて逃げ出すことができても、生きながらえることは難しいだろう。


僕は死を覚悟した。


せめて僕の失敗によって、皆が殺されませんように。


そう祈っていた。


その時だった。

牢がガラガラと開いた。


「おい、スピカと言ったか。こちらへ来い。」

そこには衛兵が立っていた。



「どこに向かっているんですか?」


僕は完全に目隠しをされて、その衛兵たちに連行されていた。


やはり殺されるのか。


「着いたぞ。目隠しを取ってやれ。」


いよいよだ。

ここで僕は殺されてしまうんだ。

僕は泣きそうになりながら目を開ける。


しかしそこには、絞首台もギロチンも無かった。



「いいか。これからはくれぐれも言動に気を付けるように。国王様から特別に恩赦が出た。感謝するがいい。」

衛兵はそう言って、僕を城の外に放り出した。

「せいぜい殺されないように頑張ることだな。」


城の外にはモブの皆が、僕を待っていた。


しかし彼らの目からは、「優しさ」がもう既に消えていた。




007.

「秋月よ。わかっているな。」


「はい、国王様。」


僕は国王様に、絶対に周囲に音が漏れないようにした部屋に、一人呼び出された。


「ようやく時は来たな。」

「はい。承知いたしております。私たちは国王様のための組織です。」

「頼りにしている。私はあちらの世界で様々な準備をしなければならないから、これからは私の命令権をお前に移譲する。」

「そんな……」

「大丈夫だ。上級貴族は皆こちらの世界に避難するだろう。ただし、アルドーフは勿論そうではないだろうがな。これが今回の親衛隊の調査結果だ。この前はすまなかった。」

「いえ。そのようなことはございません。」

「あの、スピカと言ったか?あいつは、お前もわかっているだろうが、凄まじい能力を持っている。くれぐれも扱いには気を付けることだ。今は牢に入れてアルドーフの目を掻い潜らせたが、一歩間違えれば死刑だ。いいな。」

「はい。承知いたしております。」

「あとそうだな。こちらの世界では彼の父、いや国家魔導工学士に復興のための魔道具を開発させている。お前たちが無事、あの魔王幹部を全員倒し終わり、魔王を勇者が斃し終わった暁には彼をそちらに送り込む。内政は私がしっかりとやるから安心しろ。」

「承知いたしました。必ずや、任務を成し遂げます。」


「あ、そうだ。スピカ君の話なのだが。」

「はい。」

「彼はもう少し、自分の意志で仕事をさせたほうが良い。」

「と、言いますと?」

「彼は優秀だが、まだ一つ足りていないものがある。」

「それは?」

「目的だよ。彼がモブをしている目的だ。私が彼を推薦したせいなのかもしれないが、残念ながら彼には使命感のようなものが足りていない。あと、目の前に気に入らないことがあったら直ぐにそれに怒る癖を辞めさせた方がいい。だから、彼には試練を与えなさい。」


すると僕はすこし笑い、「はい」と答えた。


「僕も久しぶりに、頭を使う時が来たな。」

僕はそう言って、これから始まる「天変地異」に備える戦略を練るのであった。

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